2020 Fiscal Year Research-status Report
転写因子GATA1とエリスロポエチンシグナルが形作る赤血球への運命決定機序の解明
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20K17392
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
平野 育生 東北大学, 医学系研究科, 助教 (00708117)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | GATA1 / Erythropoietin / erythropoiesis |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、赤血球造血を促すサイトカインであるエリスロポエチン(EPO)シグナルと、赤血球分化を制御する転写因子GATA1による協調的な赤血球分化制御機構の詳細を明らかにすることを目的としており、GATA1が必須となる赤血球分化段階の同定や、各文化段階におけるGATA1標的遺伝子の同定、EPOシグナルと協調的に制御される因子の同定を試みている。 すでに、GATA1の重度の発現低下アリルであるGata1.05アリルが活性を持つ細胞(GATA1KD細胞)では、巨核球赤芽球共通前駆細胞(MEP)段階以降の分化が障害されることを示していたため、本年度はGATA1遺伝子破壊アリル(Gata1null)による赤血球分化への影響を解析した。GATA1遺伝子やHprt遺伝子はX染色体上にあり、X/X個体ではX染色体のランダムな不活性化(XCI)の影響を受ける。XCIの影響により、Hprt-mCherry/Gata1nullマウス成体内ではGATA1発現が正常な細胞(mCherry陽性)とGATA1発現が欠失した細胞(mCherry陰性;GATA1null細胞)が存在し、これらは蛍光色素の発現により識別可能である。同マウスを用いて、赤血球分化系列のフローサイトメトリー解析を行った結果、GATA1null細胞はMEP細胞への分化も障害されていることが示された。つまりGATA1発現はMEPへの分化に必須であり、また、MEP以降の赤血球系列分化には十分な量のGATA1が必要であることが示された。 次にMEPにおけるGATA1の機能を解明することを目的に、GATA1発現正常MEP細胞とGATA1KD MEP細胞を同一個体より分取し、網羅的な遺伝子発現解析を行った。詳細な解析は今後の課題であるが、アポトーシスや細胞周期に関連する遺伝子、Kitシグナルに関わる遺伝子の発現などに差を認めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、2020年度中にRNAサンプルの回収を行い、2021年度に網羅的な遺伝子発現解析を行う予定であったが、GATA1 KDMEP細胞と正常MEP細胞の網羅的遺伝子発現解析はすでに実施した。そのため、現在までの進捗状況は予想よりも早く進んでいると考えている。 これまでの解析の結果、GATA1は予想よりも早いMEPより以前の分化段階で必須となっていることが明らかとなった。MEP以前の分化段階は多能性前駆細胞(MPP)であり、どの系列の血球へ分化しやすいかにより区分することが提唱されている(MPP2-4)。Gata1null/Hprt-mCherryマウスを用いた網羅的遺伝子発現解析を行うにあたっては、どの区分を用いて比較するかさらなる検討が必要である。そのため、各種RNAサンプルの回収を優先する当初の予定とは異なり、比較解析が可能な条件のRNAサンプルから優先的に解析する方針に切り替えている。
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Strategy for Future Research Activity |
定常状態のHprt-EGFP/Gata1.05マウスのGATA1正常MEP細胞およびGATA1 KD MEP細胞を用いた網羅的遺伝子発現解析の結果の解析をおこない、MEP細胞における直接的なGATA1標的遺伝子を同定する。また、同マウスおよびHprt-mCherry/Gata1 nullマウスに対しEPO投与実験を行い、フローサイトメトリー解析を行うことでストレス造血下でのGATA1の必要性の解析を行う。さらに、ストレス造血下においてGATA1発現異常が認められた分化段階の細胞を分取し、RNA-seq解析による網羅的遺伝子発現解析を実施する。 これらの網羅的遺伝子発現解析結果を比較することで、A:分化段階特異的GATA1標的遺伝子、B: EPOシグナルにより補償されるGATA1標的遺伝子、C: EPOシグナルのみに制御される遺伝子を明らかにする。
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Causes of Carryover |
前年度中にRNA-seq用のRNAサンプルを全て回収し、次年度の初めに網羅的遺伝子発現解析を実施する予定で予算を計上していた。しかし、マウス引数の確保の問題や、これまでのフローサイトメトリー解析の結果から得られた新事実より回収するサンプルについての要検討項目が生じたことから、優先順位をつけて解析していく方針に変更した。そのため、cDNAライブラリー合成試薬およびシークエンス試薬の購入を予定より遅らせている。次年度では、解析順序を遅らせた解析をすべて行う予定であるため、前年度の未使用分も次年度で使用する。
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