2021 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
20K17498
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Research Institution | Iwate Medical University |
Principal Investigator |
鍵谷 忠慶 岩手医科大学, 歯学部, 助教 (30405774)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | エクソソーム / microRNA / 糖尿病 / 歯周病 / 細胞外小胞 / ナノ粒子 / インスリン抵抗性 / リキッドバイオプシー |
Outline of Annual Research Achievements |
歯周病は40歳を過ぎると、8割以上が罹患する生活習慣病である。歯周病が進行すると歯槽骨が破壊されて、患者は歯を失う。近年、歯周病の影響は口腔局所にとどまらず、全身へ及ぶことが、次々と明らかになってきている。糖尿病はそのうちのひとつである。本研究は、口腔局所から血液やリンパ液等を介して全身へ影響し得る新規分子として、エクソソームに注目した研究である。 令和3年度は、歯周組織を構成する種々の細胞から分泌される歯周病特異的エクソソームの機能について検討した。その結果、ヒト歯肉上皮細胞とヒト口腔上皮細胞に大きく影響を与えていた。本年度は、骨格筋細胞と肝細胞が歯周病特異的エクソソームを取り込むかどうか調べることも計画していたが、歯周病特異的エクソソームの上皮細胞への作用を優先的に解析した。 歯周病特異的エクソソームによって、初代ヒト歯肉上皮細胞と初代ヒト口腔上皮細胞は、本来の形態である多角形から、角が取れた形態へと変化した。この結果から、間葉の性質をもった細胞へ変化した可能性を考え、初代ヒト口腔上皮細胞を使って、qRT-PCR法で調べた。間葉のマーカーであるVimentin は不変であったが、上皮細胞の接着に関与するE-cadherinは、その発現が減少した。この現象が他の上皮系細胞でも同様に起こるかどうか調べるため、舌扁平上皮癌細胞株(SCC-15)へ歯周病特異的エクソソームを作用させて、同様に調べた。しかし、SCC-15の細胞形態は変化せず、VimentinもE-cadherinもその発現に変化はなかった。 このことから、このような歯周病特異的エクソソーム作用は、口腔上皮細胞や歯肉上皮細胞に対する特異的作用である可能性が、示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初令和3年度は、骨格筋細胞と肝細胞が歯周病特異的エクソソームを取り込むかどうか調べる事を中心に計画していた。予想外ではあるが、歯周組織を構成する細胞同士での局所的歯周病特異的エクソソームの作用を検討していたところ、口腔上皮細胞や歯肉上皮細胞に対して、興味深い知見が得られたので、こちらを優先的に解析した。 その結果は、「研究実績の概要」に示した通りであるが、解析が未だ十分ではない。検討した上皮系細胞の種類も限られており、繰り返し実験も不足している。qRT-PCR法でmRNAレベルでの発現は調べたが、タンパク質レベルでの検討はしていない。歯周病特異的エクソソームの回収には、ExoQuick-TC を使ったポリマー沈殿法を用いた。しかし、ポリマー沈殿法には、エクソソームだけではなく、夾雑タンパク質も多く回収されてしまうという欠点がある。令和4年度は、令和3年度に検討できなかった、このような課題に取り組みたい。
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Strategy for Future Research Activity |
エクソソームは、ヘテロなナノ粒子の集団であり、回収方法が複数存在する。そして、回収方法が異なれば、得られるエクソソームの性質や性状も異なる。エクソソームの回収方法には、超遠心法、密度勾配遠心法、ポリマー沈殿法、抗体アフィニティー法等がある。例えば、令和3年度の本研究では、ExoQuick-TC を使ったポリマー沈殿法を用いた。この方法は、回収量が多く、実験操作も簡便であるという利点があるが、その一方で、エクソソームだけではなく、夾雑タンパク質も多く回収されてしまうという欠点がある。これに対し、抗体アフィニティー法は、夾雑タンパク質が少ない高純度のエクソソームが回収されるが、特定の抗原(CD9, 63, 81など)を強く表面に発現しているエクソソームだけが回収される偏った粒子集団となってしまう。このように、完璧なエクソソーム回収方法はないというのが現状である。 上述の回収方法の特性を鑑みると、令和3年度に用いたポリマー沈殿法では、回収された歯周病特異的エクソソームの中に、細胞から分泌されたサイトカインが含まれていて、それが口腔上皮細胞や歯肉上皮細胞に対して作用した可能性を否定できない。そこで、サイトカイン等の夾雑タンパク質が少なく、かつ、特定のエクソソームだけが回収される偏った粒子集団とならないような方法で解析する必要がある。 この要件を満たす新しい回収方法として「ホスファチジルセリン(PS) アフィニティー法」がある。エクソソームはその膜の外側にPSを発現している(通常は膜の内側に発現する)事を利用した方法である。令和4年度では、PSアフィニティー法で歯周病特異的エクソソームを回収して、各種細胞に対する作用を検討する予定である。
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Causes of Carryover |
次年度使用額は、42円なので、ほぼ「ない」とみなせる。無理に使い切らなかったということである。
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