2020 Fiscal Year Research-status Report
糖毒性・脂肪毒性による分泌顆粒内におけるプロインスリンプロセシング障害の解明
Project/Area Number |
20K17501
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Research Institution | Juntendo University |
Principal Investigator |
飯田 雅 順天堂大学, 医学部, 助教 (60751146)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | プロインスリンプロセシング / 糖毒性 / 脂肪毒性 / 分泌顆粒内環境 / プロホルモン変換酵素 / 2型糖尿病 |
Outline of Annual Research Achievements |
血中プロインスリン/インスリン比は臨床で測定可能な膵β細胞機能の指標の一つであり、2型糖尿病発症以前の耐糖能異常の段階から上昇を来す。プロインスリンプロセシングは膵β細胞分泌顆粒内においてProhormone Convertase 1/3(PC1/3)及び2(PC2)が中心的に作用するため、血中プロインスリンの上昇はこれらの酵素機能の障害を示唆する。PC1/3とPC2は共に前駆体として生成され、その成熟と酵素活性は共に分泌顆粒内酸性環境とカルシウムに依存するため、酵素機能障害は分泌顆粒内環境の変化を反映する。本研究は2型糖尿病発症に関与する糖毒性、脂肪毒性がプロインスリンプロセシングに及ぼす影響を、PC1/3とPC2の酵素機能障害の観点から明らかにすることを目的としている。 2020年度はin vitroにおいて糖毒性、及び脂肪毒性によるプロインスリンプロセシング障害を検証した。膵β細胞系腫瘍株であるMIN6細胞、及びC57/BL6雄マウス単離膵島において、Western Blotting法を用いて各酵素及びインスリンの成熟を評価した。グルコース負荷のみでは特に影響は見られなかったが、飽和脂肪酸であるパルミチン酸を負荷したところ、PC1/3とPC2の成熟が障害され、プロインスリンの蓄積が認められた。さらに両者を同時に負荷した際にこれらの結果が増悪したことから、プロインスリンプロセシング障害は脂肪毒性の影響が先行し、糖毒性が相乗的に作用することが判明した。さらにPC1/3とPC2の酵素活性を蛍光測定法で検証したところ、パルミチン酸が両者の酵素活性を抑制した。一方でこれらの刺激によるインスリン、PC1/3、及びPC2の遺伝子発現は大きな変化はなく、これら一連の結果はタンパク質の翻訳後修飾による影響であり、分泌顆粒内でのプロセシングの障害であることが示唆される結果となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度は主に培養細胞を用いてin vitroにおける糖毒性、脂肪毒性によるプロインスリンプロセシングへの影響を検証した。PC1/3とPC2の成熟度や酵素活性は分泌顆粒内の酸性化に強く影響を受け、そしてこれらの酵素によりプロインスリンはインスリンへと変換される。そのため脂肪毒性によるPC1/3とPC2の酵素機能障害とプロインスリンプロセシング障害を並行して明らかにしたことは、分泌顆粒内環境が影響を受け変化していることを強く示唆する結果となった。さらにこれらの変化に対しては脂肪毒性が先行して障害を誘導し、糖毒性が相乗的に作用することを見出した。またこれまでのところ細胞内脂質代謝を改善させることで、脂肪毒性による影響を緩和し、PC1/3とPC2の成熟障害が改善することも判明している。一方C57/BL6雄マウス単離膵島を用いた酵素活性測定に関しては、回収タンパク量が極微量であるため測定条件を現在検討中である。 飽和脂肪酸による脂肪毒性は多面的な作用があり、インスリン生合成過程全般に多大な影響を与えることが報告されている。今後はどのような機序を介して脂肪毒性が分泌顆粒内環境を変化させ、プロインスリンプロセシングを傷害させるのかより詳細に検証を進める。 2020年度予定した報告者独自のPC1/3とPC2の成熟度及び酵素活性測定による脂肪毒性の実証と、プロインスリンプロセシング障害の併存を明らかにすることができた経緯から【おおむね順調に進展している】と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
膵β細胞系培養細胞及びC57/BL6雄マウス単離膵島を用いて、糖毒性・脂肪毒性によるプロインスリンプロセシングへの影響を、PC1/3とPC2の酵素機能とそれを制御する分泌顆粒内環境の観点から検証し、脂肪毒性により多大に影響を受けることを明らかにした。今後は飽和脂肪酸の過剰負荷が、どのような機構を介してプロインスリンプロセシングに影響を与えるのか詳細な機序の解明に迫る。飽和脂肪酸には多面的な作用があり、これまでに細胞内脂質の蓄積、脂質代謝異常により酸化ストレス、ERストレスが誘導させるのみならず、Ceramideの蓄積や慢性炎症を惹起するなどが報告されている。これらの機構と分泌顆粒内環境の変化を検証した報告は数少なく、プロインスリンプロセシングに何が最も関与しているかを明らかにする。分泌顆粒内酸性化に重要な役割を果たすV-ATPaseの機能に着目し、脂肪毒性がこのタンパク機能に与える影響を検証する。また脂肪毒性によるプロインスリンプロセシング障害の可逆性を検証し、新規創薬の標的機序の発見を目指す。 これらのin vitroでの検証が進んだ後、C57/BL6雄マウスに高脂肪食を負荷し、in vivoでのプロインスリンプロセシング障害を検証する。さらに現在臨床で使用されているGLP1受容体作動薬は血糖依存性のインスリン分泌促進作用の他に、様々な多面的効果を併せ持つ。糖毒性・脂肪毒性に対する膵β細胞への保護的作用や、血中プロインスリン/インスリン比の改善などが日本人のデータを含め数多く報告されており、その詳細な機序の解明を目指す。
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