2020 Fiscal Year Research-status Report
がん免疫活性化を介した乳がんに対する革新的治療法の開発と免疫寛容メカニズムの解明
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20K17560
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Research Institution | Nagoya City University |
Principal Investigator |
寺田 満雄 名古屋市立大学, 医薬学総合研究院(医学), 臨床研究医 (70847441)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 乳癌 / 腫瘍免疫 |
Outline of Annual Research Achievements |
新型コロナ蔓延の影響を受け、乳癌組織検体採取を行う名古屋市立大学から検体解析を行う名古屋大学への検体輸送に必須となる試薬の供給が滞った。その結果、現時点でも研究対象の症例検体を集積することができていない。本研究の目的は、乳癌腫瘍組織検体を用いて、乳癌が宿主の免疫監視から逃れるメカニズムを明らかにし、新たな治療戦略を確立することにある。そこで、我々は試薬配給の停滞によって症例集積ができない間、乳癌組織を用いず、末梢血単核細胞(PBMC)と乳癌細胞株を用いて、乳癌の新たな免疫逃避メカニズムの解析を試みた。 今回我々は、乳癌全体の約15%で発現するある蛋白(蛋白Xとする)が免疫細胞細胞に直接的に作用し、免疫細胞の活性を低下させる可能性を見出した。通常、リンパ球をはじめとした免疫細胞には蛋白Xは発現していない。しかし、蛋白Xが発現した細胞株と免疫細胞を共培養すると免疫細胞にも蛋白Xの発現が観察された。この現象は分子Xが発現していない細胞株と共培養した際には観察されなかった。蛋白Xが発現した免疫細胞は一時的には活性化した状態にあるが、24時間以内に速やかにその活性を失うことが明らかになった。このことから、蛋白Xが発現した乳癌細胞は、あるメカニズムを介して(現象Yとする)免疫細胞に分子Xを発現させることで一度活性化し、癌細胞を攻撃してきた免疫細胞を不活性化するというメカニズムで、宿主の腫瘍免疫から逃れている可能性が示唆された。をそして、この現象Yによる免疫細胞の不活化を防ぐことで腫瘍免疫を高めることができる可能性を見出した。今後、この現象Yについてさらに検討を行い、乳癌の新たな治療戦略確立を目指す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
当初予定していた解析は、はじめに乳癌組織検体の解析から始まる予定であったが、新型コロナウイルス禍の資材流通の滞りによって開始することができていない。そのため、進捗は大幅に遅れていると言える。しかし、臨床組織検体を用いない別のアプローチで免疫逃避メカニズムの解析を開始したところ、これまでに報告されていない新たな現象を見出し、この現象が乳癌の免疫逃避に関与している可能性を見出すことができた。予定していた計画よりは大幅に遅れているが、本課題に一定の見解を出すための糸口はつかむことができている。
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Strategy for Future Research Activity |
新型コロナウイルスの収束の目処はたっておらず、それに伴い、乳癌組織検体の輸送についても目処が立っていない。そのため、当初予定していた解析とは別に今回新たに見出した現象Yを介した免疫細胞の活性を抑制するメカニズムについてさらに検討をすすめる。 現在の検討課題は、現象Yの関与を示唆するデータは得られているが、蛋白Xを新たに発現した免疫細胞がなぜ活性を失うかというメカニズムは明らかにすることができていない。フローサイトメトリーでの解析やRNAシークエンスを用いて、分子X発現んおある免疫細胞の特徴を明らかにする。また、蛋白Xが免疫細胞に発現することを防ぐことができれば、抗腫瘍免疫を高めることができる可能性があるため、免疫細胞での蛋白X発現の阻害方法についても検討を行う。 当初予定していたアプローチとは異なる手法ではあるが、本研究結果は乳癌が免疫逃避メカニズムを新たなアプローチで明らかにするものであり、今後も検討を続ける。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染拡大の影響で、試薬が滞り、実験が滞ったため、次年度使用金が発生した。繰越金は次年度に使用する試薬、機材などの物品費に使用予定。
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