2020 Fiscal Year Research-status Report
膵癌神経浸潤に対する新規局所療法:紫外線感受性レクチン融合薬による糖鎖標的治療
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20K17638
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
下村 治 筑波大学, 医学医療系, 講師 (60808070)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 新規膵癌治療 / 光感受性レクチン融合薬 / レクチン / 糖鎖 / 分子標的治療 / 神経叢浸潤 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は薬剤融合光感受性レクチンを用いた新しいがん治療法の開発を目指すものである。初年度である本年度は、実際に神経叢浸潤した膵癌細胞に薬剤送達するためのレクチンが反応性を有するかを、複数の臨床膵癌検体を用いた免疫化学染色で確認した。神経叢周囲に浸潤した膵癌細胞に対しても我々が同定したレクチンは強力に反応性を有することが確認された。続いて本レクチン融合薬を用いて、In vitroで各種条件設定をして殺細胞効果を検証した。本レクチンに反応性がある細胞株、無い株を用いて紫外線照射の有無での殺細胞効果の違いを検証し、レクチンに反応性がある細胞株に対して紫外線照射時に有意に高い殺細胞効果が確認された。この実験ではFreeの薬剤(ドキソルビシンDOX)のみを添加した場合とほぼ同等の抗腫瘍効果を示す結果であった。 これまでの培養細胞を用いた検証から、1,膵癌細胞は神経叢浸潤を示した細胞に置いてもrBC2レクチンの反応性を有すること、2,膵癌細胞にレクチンは取り込まれること、3,薬剤添加後にUV照射群で有意に高い殺細胞効果を示すことが明らかになった。これらの結果から、外科切除に加え、本薬剤+UV照射による局所治療を加えることで、腫瘍細胞の神経叢残存が懸念される膵癌に対して更なる高い制御効果を加える画期的な治療法となり得る可能性が示された。また、UV照射領域外に対しては殺細胞効果は弱く、副作用の低減が期待でき、腫瘍が残存する可能性のある部位に特異的に薬効を発揮することが可能となる。今後マウスを用いた抗腫瘍効果の検証を予定する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は実験1として、動脈周囲神経叢浸潤を来した膵がん細胞が実際にrBC2レクチンに反応性を有するかを複数の膵癌患者検体を用いて検証した。これまでの主腫瘍へのレクチンの反応性と同等に、神経叢に浸潤したがん細胞にも全症例本rBC2LCNレクチンは反応性を有することが確認された。次に実験2として記載した、膵癌細胞株を用いてBC2レクチン―ドキソルビシン(DOX)複合体による抗癌治療実験を行った。使用した薬剤はこれまで共同研究先である産総研が開発報告しているBC2Tama-DOXPBCを用いて実験を行った。これまでに我々が報告したBC2に反応性を有する細胞株Aと反応性を有しない細胞株Bを用いて、まずBC2レクチンを有しないDOX-PBCを用いて、DOX単剤、DOXPBC(UV照射あり、無し)をMTTアッセイで比較した。その結果、細胞株A、BともにDOX単剤が最も有効であり、DOXPBCに紫外線照射を加えた群は、非UV照射群と比較し有意に殺細胞効果が高いことが示され、本実験系(DOXによる抗がん治療の実験系)が有効であることを確認した。ツづいて実際にBC2レクチンにTamavidinを融合した薬剤が細胞内に取り込まれるかを生細胞用いた蛍光顕微鏡で観察した。蛍光標識したレクチンが細胞Aのみにおいて細胞内に取り込まれることを確認した。続いてIn Vitroでの、BC2レクチンTama-DOXPBC複合体による殺細胞実験を行った。細胞株はA,Bを用いて、BC2Tama-DOXPBCを添加後、UV照射群、非照射群に分けてMTTアッセイにより検証を行った。すると、レクチンに反応しない細胞株BにおいてはUV照射の有無に関わらず殺細胞効果は示されず、反応性のある細胞株Aに関してはUV照射で有意に高い殺細胞効果を示した。今後マウスでの抗腫瘍効果の実験を行っていく。
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Strategy for Future Research Activity |
本治療の最大のメリットは、腫瘍そのものや腫瘍残存が懸念される部位に紫外線照射をすることで薬効を発揮し、それ以外の部位へは有害事象を最大限に抑えることが特徴である。しかし、難治固形癌である膵癌の治療成績向上には、腫瘍細胞へ最大限の薬効を発揮する必要がある。今後、まずIn Vitroの実験結果を基に、膵癌細胞移植マウスモデルで、腫瘍への集積性を蛍光を用いた検出法で確立し、薬剤投与量、光の強度、薬剤投与から光の治療のタイミングなど複数の条件検討を行っていく。まず、本薬剤の体内動態をマウスを用いた実験で明らかにし、どのタイミングで、どの程度の時間の光治療をを行うのか、また紫外線の強度、安全に生体に使用可能な強度も検証する。その後、実際にマウスモデルを用いて、薬剤投与後に腫瘍への紫外線照射を行い、抗腫瘍効果を検証する。最大限の薬効を発揮し、副作用が低減できる最適な条件を炙り出すことを目指す。 また、従来の抗体を用いた光線治療法と比較し、レクチンを用いた本法がより有効性が高いことを証明するために、同じ薬剤融合させた抗体を準備し、抗体を用いた手法と比較し有効性の検証を行うと同時に、安全性も検証する予定である。 更に、本研究で用いた抗がん剤ドキロルビシンDOXは膵癌に対しても一定の効果があることが示されているが十分な薬効を示すには不十分である可能性がある。現在、他の癌腫で臨床導入されている薬剤Xが本レクチンに結合性を有することが明らかとなり、すでに臨床試験段階に入ってる薬剤Xを本実験系に導入することでより高い効果、再現性が得られる可能性があり同様の実験を行い検証を進めている。
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