2020 Fiscal Year Research-status Report
注意欠陥多動性障害における内因性鎮痛機構の変化と痛みの慢性化機序の解明
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20K17775
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Research Institution | Gunma University |
Principal Investigator |
鯉淵 郁也 群馬大学, 医学部附属病院, 助教(病院) (90846809)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 内因性鎮痛系 / 注意欠陥多動性障害 / ノルアドレナリン神経系 / 神経障害性疼痛 / ガバペンチン |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、「注意欠陥多動性障害における内因性鎮痛機構の変化と痛みの慢性化機序の解明」というテーマで実験を進めてきた。過去の研究から、痛みの制御にはノルアドレナリン(NA)神経系を介した内因性鎮痛系が深くかかわっていることが示唆されている。特に慢性痛状態の動物においては、これら内因性鎮痛系が減弱しており、脳機能にも変化を起こしていることが示唆されていた。本研究では、もともと脳機能に変化を起こしている動物では、痛みの感じ方に変化があるのか、さらには鎮痛薬の反応や痛みからの回復機構などに変化があるのかということを解明することを目的としている。 今回のモデル動物として、Spontaneously Hypertensive Rat(SHR)を用いた。SHRは、注意欠陥多動性障害(ADHD)のモデルラットとして用いられており、NA神経系など複数の脳機能に変化を起こしていることが示唆されている。ただし、痛みの研究に用いられた報告は少なく、脳機能変化と痛みの感じ方を関連づけた検証は十分でない。本研究ではSHRを用いて痛みのモデル動物を作成し、controlと比較して痛みの感じ方にどのような変化がみられるか、その変化をもたらしているのは脳のどのような変化なのか、といったことを検証している。 実験では、SHRおよびcontrolの神経障害性疼痛モデルであるSpinal Nerve Ligation(SNL)モデルを作成し、各種検証を行った。結果として、鎮痛薬の一種であるガバペンチンを投与したことによる鎮痛効果が、SHRでは十分に働かないことが示唆された。ガバペンチンは過去の研究から、内因性鎮痛系のNA神経系を介して鎮痛効果を発揮することが示唆されている。したがって、SHRはcontrolと比較してNA作動性神経系を介した内因性鎮痛系が減弱していることが推察され、現在その検証をすすめている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
まず、全世界的なCOVID-19流行の影響で、当研究施設でも研究制限などがあり本実験計画にも変更が生じた。現在動物購入などへの影響は最小限となっているが、流行に伴い再度制限がかかる可能性があるため、今後の動向にも注意する必要がある。 実験自体の進捗状況としては、まずSHRのSNLモデルに関して、ガバペンチンを用いた疼痛閾値の変化を観察する行動実験においては、明らかな優位差がみられた。この現象の理由をしらべるため、現在脳や脊髄のNA神経系を中心とした免疫染色やマイクロダイアライシスによるNAなど神経性伝達物質の濃度測定を行っているが、この段階で遅れがみられている。具体的には、研究者の手技の問題や、測定用の機械のトラブル、先述の研究制限などの影響もあり、十分なデータを蓄積できていないのが現状である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は進捗に遅れがみられるため、同研究室の他の研究者とも一部連携して推進する予定である。具体的には、動物モデルの作成、免疫染色とその結果の判定、マイクロダイアライシスの試薬の調整など、一部の実験に関して補助を行っていただくことを検討している。実験方法に関しても、結果が出ないものについては別の検証方法を模索するなどといった方策を検討している。 また、本研究に関連して、麻酔領域の臨床研究に応用できるものがないか、現在模索中である。具体的には、脳機能が痛みの感じ方に変化をもたらすのであれば、それを手術の前などに非侵襲的に評価できる方法がないか。例えば、手術前診察中の血圧変動は患者の身体的疾患のみならず不安の度合いや脳機能、自律神経などの影響を受ける可能性がある。それらを評価することで、手術中の血圧変動、ひいては術中術後の痛みの感じ方を推測することができる可能性がある。
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Causes of Carryover |
COVID-19の流行により研究活動に一部制限があった期間があり、予定より使用額が少なかった。研究の遅れもあるため、次年度以降の研究活動費、具体的には動物や物品の購入費として充てる計画である。
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