2020 Fiscal Year Research-status Report
脊髄Ⅹ層における慢性疼痛発症過程で生じるシナプス可塑性変化の病態解明
Project/Area Number |
20K17777
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
大橋 宣子 新潟大学, 医歯学総合病院, 助教 (70706712)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 脊髄Ⅹ層 / ノルアドレナリン / パッチクランプ記録 / 疼痛 |
Outline of Annual Research Achievements |
脊髄Ⅹ層にはGABA、グリシンなどの痛覚伝達に関与する神経伝達物質が多く含まれており、また下行性抑制系ニューロンがⅩ層へ投射する。さらに我々はこれまでに、代表的な神経伝達物質であるノルアドレナリン (NA)が脊髄Ⅹ層の抑制性シナプス伝達を有意に活性化させることを明らかにしている。つまり脊髄Ⅹ層が慢性疼痛の発症に関与する可能性が示唆されるが、Ⅹ層の機能について着目した報告はなく、慢性疼痛時のⅩ層における変化をシナプスレベルで検討した報告はない。 まず本研究の本年度では、疼痛時のⅩ層におけるNAの反応を電気生理学実験により解析し、Ⅹ層の機能について検討した。慢性疼痛モデルとして炎症性疼痛モデル (CFA)を用いた。 電気生理学実験は脊髄スライス標本のⅩ層からin vitroパッチクランプ記録を用い、微小興奮性シナプス後電流 (mEPSCs)と微小抑制性シナプス後電流 (mIPSCs)を記録し、NA (20 μM)に対する反応を検討した。その結果、mEPSCsは NAの投与を行ってもoutwardを認めた以外は変化を認めなかった。一方、mIPSCsはNAの投与により、naiveラット、CFAラットいずれもoutwardを認め、頻度も有意に増加した。観察されたNAの反応がα受容体、β受容体を介する反応か検討したところ、NAによるmIPSCsの頻度増加作用はα1およびα1A受容体アンタゴニストで拮抗された。また、NAによるmIPSCsのoutward currentはα2受容体アンタゴニストで拮抗された。これらの結果から、脊髄Ⅹ層において、NAは抑制性ニューロンのシナプス前終末に存在するα1A 受容体を活性化することでNAの放出を促進する、および直接シナプス後膜に存在するα2受容体を活性化し膜の過分極を生じることで鎮痛効果を発揮している可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度では、慢性疼痛モデルラットとして炎症性疼痛モデルラットを作製し、疼痛モデルを確立した。そして炎症性疼痛モデルラットを用い、Ⅹ層におけるNAの作用をin vitro脊髄スライス標本からのパッチクランプ法を用いた電気生理学実験により検討した。その結果、mEPSCsは NAの投与を行ってもoutwardを認めた以外は変化を認めなかった。一方、mIPSCsはNAの投与により、naiveラット、CFAラットいずれもoutwardを認め、頻度も有意に増加した。このNAによるmIPSCsの頻度の増加作用はα1A 受容体拮抗薬で拮抗され、outwardはα2受容体拮抗薬で拮抗された。これらの結果から、脊髄Ⅹ層において、NAは抑制性ニューロンのシナプス前終末に存在するα1A 受容体を活性化することでNAの放出を促進する、および直接シナプス後膜に存在するα2受容体を活性化し膜の過分極を生じることで鎮痛効果を発揮している可能性が示唆された。 本研究は、慢性疼痛発症過程で生じるシナプス可塑性変化がⅩ層においても生じているか、慢性疼痛モデルラットを用いた電気生理学実験、免疫組織学実験により、Ⅹ層ニューロンに対する痛覚伝達に関与する神経伝達物質の反応を多角的に検討することで、慢性疼痛発症過程の新しい機序を発見し、慢性疼痛の病態解明に寄与することである。そのため本年度中に、上記の電気生理学実験と並行して免疫組織学実験も行う予定であった。しかし、免疫組織学実験を行うのに必要な器具の故障のため修理が必要となり、実験を中断する期間が生じた。さらに新型コロナ肺炎の影響により業者の修理、納品も遅れ、その実験を中断する期間も延長している。そのため現在の進捗状況としてはやや遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、慢性疼痛発症過程で生じるシナプス可塑性変化がⅩ層においても生じているか、慢性疼痛モデルラットを用いた電気生理学実験、免疫組織学実験により、Ⅹ層ニューロンに対する痛覚伝達に関与する神経伝達物質の反応を多角的に検討することで、慢性疼痛発症過程の新しい機序を発見し、慢性疼痛の病態解明に寄与することである。次年度では、電気生理学実験としてはin vivo脊髄標本を用い顕微鏡下に電極を脊髄Ⅹ層に誘導し、脊髄表面にNAを灌流し、細胞外記録を用いて後肢刺激による活動電位の発生頻度の変化を観察する予定である。また免疫組織学実験では、脊髄横断スライスを作製し、NAを灌流した後、痛み刺激により発現することが知られているリン酸化extracellular signal-regulated kinase(pERK)抗体を用いて免疫染色を行い、光学顕微鏡下にⅩ層におけるpERK陽性細胞数を計測し、pERKの発現の変化を観察する予定である。慢性疼痛モデルラットにおいて、活動電位の発生頻度の増加やpERK陽性細胞数の増加を認めた場合、Ⅹ層が慢性疼痛の発症に関与していることが示唆される。 またⅩ層ニューロンには、NAと同様にセロトニン、GABA、グリシンなどの痛覚伝達に関与する神経伝達物質も多く含まれることが明らかになっているため、本研究ではNAの他に、セロトニン、GABA、グリシンなどの多くの神経伝達物質の脊髄Ⅹ層における作用も検討していく予定である。
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Causes of Carryover |
当初より本研究は、慢性疼痛発症過程で生じるシナプス可塑性変化がⅩ層においても生じているか、慢性疼痛モデルラットを用いた電気生理学実験、免疫組織学実験により、Ⅹ層ニューロンに対する痛覚伝達に関与する神経伝達物質の反応を多角的に検討することを計画していた。そのため本年度では、慢性疼痛モデルラットとして炎症性疼痛モデルラットを作製し、in vitro脊髄スライス標本からのパッチクランプ法を用いた電気生理学実験を行った。 研究計画に従い次年度では、電気生理学実験としてはin vivo脊髄標本を用い、NAを灌流し、細胞外記録を用いて脊髄Ⅹ層の活動電位を観察する予定である。また免疫組織学実験は、当初は本年度に電気生理学実験と並行して行う予定であったが、実験器具の修理のため次年度に行うことに変更となった。免疫組織学実験では脊髄横断スライスを作製し、NAを灌流した後、痛み刺激により発現することが知られているリン酸化extracellular signal-regulated kinase(pERK)抗体を用いて免疫染色を行い、pERKの発現の変化を観察する予定である。そのため実験動物や試薬費用などの物品費が必要である。さらに、次年度ではこれらの研究成果を発表するために、国内外の学会参加や論文投稿の費用に使用していく予定のため、旅費や英文投稿費が必要である。そのため次年度使用額が生じた。
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Research Products
(1 results)