2021 Fiscal Year Research-status Report
クラスリン被覆小孔形成を標的としたオピオイドの副作用発現シグナル抑制への挑戦
Project/Area Number |
20K17780
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Research Institution | Department of Clinical Research, National Hospital Organization Kyoto Medical Center |
Principal Investigator |
宮井 善三 独立行政法人国立病院機構(京都医療センター臨床研究センター), 展開医療研究部, 研究員 (10785463)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | オピオイド受容体 / βアレスチン経路 / MAPK経路 / エンドサイトーシス / クラスリン被覆小孔 / クラスリン |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度までに行った、エンドサイトーシスの各段階を選択的に阻害する薬剤を利用した実験結果から、μオピオイド受容体を基点として活性化されるMAPK経路の活性化には、βアレスチンとクラスリン重鎖との会合が重要であることが示唆された。先行研究からは、βアレスチン経路は、オピオイドによる呼吸抑制や消化管運動障害などの副作用に関連するシグナルの起点になっていると想定されている。このように、μオピオイド受容体を基点とする重要なシグナルが、エンドサイトーシスという、リガンド刺激によって活性化し脱感作された受容体を、再感作・再利用経路へと導く、一見すると関連のない現象と密接に関与していることが示唆された。 本年度は、エンドサイトーシスに関与する分子のうち、先行研究において、βアレスチンと結合することが示唆されている分子群を遺伝学的に欠損させた神経系培養細胞株を樹立して、阻害剤を利用した実験から導いた結論を検証した。βアレスチンは、活性化したμオピオイド受容体と会合すると、クラスリン被覆小孔を形成する分子群の足場となり、AP-2複合体のβ2アダプチンサブユニットと、クラスリン重鎖と会合する。そこで、CRISPR/Cas9を利用してβ2アダプチンやクラスリン重鎖のノックアウト細胞を樹立した。クラスリンは細胞分裂などに必要な必須遺伝子であるからか、目的通り両染色体に遺伝子改変が加わっても、完全な欠損株を得ることはできなかったので、得られたヘテロ接合体のうち、発現量が特に少ないものを選んで解析した。β2アダプチンを欠損しても、受容体の内在化やMAPK経路の活性化はほとんど影響を受けなかったが、クラスリン重鎖の発現量が減弱すると、MAPK経路や受容体内在化は完全には消失しないものの、減弱する傾向が観察された。つまり、阻害剤を利用した実験結果を裏付ける結果が得られた
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
クラスリン重鎖を完全に欠失した細胞を得ることはできなかったが、発現量が顕著に減少した遺伝子変異体を利用し、阻害剤を利用して得られた実験結果を裏付ける結果を得た。ここまで、おおむね申請書の年次計画の通りに研究が進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで培養細胞株で得られた実験結果から、βアレスチンとクラスリン分子との会合を阻害すれば、βアレスチン経路によって賦活化されると想定されている呼吸抑制を軽減できる可能性が示唆された。今後は、βアレスチンとクラスリンとの会合を阻害する薬剤によって、オピオイドによる呼吸抑制が軽減されるかを動物モデルを用いて解析する。 一方で、この数年間で、Gタンパク質共役型受容体を基点とするシグナルの活性化機構は飛躍的に理解が進んだ。これまでは、μオピオイド受容体を基点とするシグナルは、βアレスチンを欠損した場合にMAPK経路の活性化が著しく減弱するという実験結果を基に、βアレスチンがGタンパク質は独立してMAPK経路を活性化する起点となっていると想定されてきた。しかし、Gi/oが活性化するにはβアレスチンとの結合が重要であるためβアレスチンを欠損するとMAPKが減弱するという、細胞内シグナルの活性化機構についての全く新しい知見が2021年にScience誌などから発表された。つまり、これまで本研究で得られた実験結果も、βアレスチンとクラスリンとの会合が、Gi/oの活性化のために重要であることを示唆している可能性がある。そこで、細胞をGi/o阻害剤で処理した場合と、βアレスチンを欠損した場合とでの細胞内シグナルの強度の変化を詳細に評価し、本研究で解析しているシグナルの対象を明らかにする実験を追加する。
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