2020 Fiscal Year Research-status Report
脊髄腫瘍の手術戦略決定に有用な術前、術中H3F3A遺伝子プロファイリング
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20K17962
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
永島 吉孝 名古屋大学, 医学部附属病院, 病院助教 (20867684)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | H3F3A遺伝子変異 / 脊髄アストロサイトーマ / ddPCR / i-densy解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年多くの脳脊髄腫瘍では特定の遺伝子異常が正確な診断、治療方針の決定に重要な分子マーカーとなっている。今後は脳脊髄腫瘍の手術戦略の検討には、これまでの画像情報、臨床情報等に加えて、遺伝子プロファイリング情報が重要な役割を果たすと考えられる。若年者に好発し、予後不良である脊髄アストロサイトーマではH3F3A遺伝子変異が強力な診断マーカーであるとともに予後不良マーカーであることが明らかになった。脊髄髄内腫瘍においては、術中に取れる検体が少ないために術中迅速病理検査の正確性が低いことが以前から問題となっている。術前、術中に脊髄アストロサイトーマのH3F3A遺伝子変異を同定することができれば、正確な診断を考慮した手術戦略の決定が可能になると考えた。 これまでに当部で保存した、髄液検体と腫瘍検体を冷凍保存したものからDNAを回収し、バイオアナライザーで定量しH3F3A変異の有無を確認した。また、実際の手術中に採取した検体からH3F3A変異の有無の検索を実施した。迅速解析については、1mg-50mgの検体を用いて、蛍光Qプローブを用いたi-densy(アークレイ社)で行った。約90分で遺伝子の解析を行うことが可能である(Fig1)。過去にはIDH1変異に関して同様の報告がある。本方法は一塩基多型を高感度かつ、迅速に検出できるシステムであり、IDH1変異のように特定部位が変異する、ホットスポット変異に対して極めて有用な手段と考えられる。H3F3Aは27番目のリシン(K27)、34番目のグリシン(G34)のみに変異を認めることが明らかになっており、本方法で解析可能と考えた。 また、脊髄星細胞腫症例数がかなり少ないため、H3F3A遺伝子変異だけではなく他の遺伝子変異についても不明確かなことが多い。そのため、sanger sequencingなどを用いて脊髄星細胞腫の遺遺伝子異常の特徴を解明することも本研究の課題とする。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2016年から2019年の間に名古屋大学脳神経外科、及び関連施設にて手術を施行した脊髄髄内腫瘍6症例において、H3F3A K27M変異の術中高感度迅速診断法を行い、遺伝子変異の同定を行った。そのうち、術中迅速診断と最終病理結果が異なるものは2例であった。1例は術中迅速診断でneurinomaとされたものの、最終病理結果はependymomaであった。もう一例は、術中迅速診断でWHO grade II-III程度の星細胞腫とされたものの最終結果ではWHO grade IVの星細胞腫と診断された。本症例では、H3F3A K27M変異の術中迅速診断も陽性であり、本検査の有用性を示唆する結果となった。術中迅速病理診断と最終病理結果およびH3F3A K27M変異の有無について検討を行った。 現在のところ以上のような結果が出ている。しかしながら、腫瘍検体の迅速遺伝子解析技術の確立に必要な手術件数に達しておらず、さらなる症例の蓄積を試みている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は更なる集積を行い、遺伝子変異の確認を行うことで術中迅速検査の手技確立を目指す。また、H3F3K27M変異以外にもATRX遺伝子、p53異常あいるはIDH変異など他の変異についても解析し、同様にその術前、術中遺伝子解析法の確立を目指す。本研究より遺伝子プロファイリング情報を加味した脊髄アストロサイトーマの手術戦略の確立を目指す。
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Causes of Carryover |
現在、過去の検体についての検査を行っている。しかし、脊髄星細胞腫は症例数が大変少ないため、腫瘍検体の迅速遺伝子解析技術の確立に必要な手術件数に達していない。 また、コロナウイルス感染拡大の影響で各種学会開催方式がオンラインとなったため出張費が削減できたことも要因として挙げられる。 次年度使用額はさらなる症例の蓄積に必要な経費に充てる。
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