2020 Fiscal Year Research-status Report
膠芽腫に対するアミノ酸代謝酵素を標的とした分化誘導療法の前臨床研究
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20K17980
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
山室 俊 日本大学, 医学部, 助教 (30790886)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 膠芽腫 / 神経膠腫幹細胞 / 腫瘍免疫 / 分化誘導 |
Outline of Annual Research Achievements |
膠芽腫に対する新規治療法として、神経膠腫幹細胞を標的とした分化誘導療法の開発およびその効果の検討を行うべく本研究を行っている。我々は先行研究により、神経膠腫幹細胞では分化した通常の膠芽腫細胞に比べ、indoleamine 2,3-dioxygenase 1(IDO1)が強く発現していることを確認している。IDO1はトリプトファンの代謝酵素であり、自己免疫を抑制する作用を持つことが報告されている。近年、マウスにおいてIDO1をノックアウトすると、インターフェロンベータの発現が上昇することを示した報告がなされたが、イ ンターフェロンベータは腫瘍細胞の分化を促進することが知られている。このことから、IDO1を阻害することにより、インターフェロンベータの発現を介して、神経膠腫幹細胞を含む膠芽腫細胞の分化が促進されると考え、本研究を開始した。本研究では広く基礎実験に用いられている市販のヒト悪性神経膠腫細胞株U-87MG、U-251MG、手術患者検体より樹立した神経膠腫幹細胞株、およびU-87MG、U-251MGを無血清培地で培養して樹立した神経膠腫幹細胞モデル細胞株のRev-U-87MGおよびRev-U-251MGを用いている。また、IDO1阻害剤としては、indoximodを用いている 。Indoximodを神経膠腫幹細胞の細胞株に投与したところ、形態学的変化として神経膠腫幹細胞株のsphereが小さくなり、一部接着細胞化した。また、神経膠腫幹細胞のマーカー分子であるNanog、Nestin、Sox2のタンパク発現が減少した。このように、indoximodの投与により神経膠腫細胞の分化傾向が確認されている。さらに、当該年度の研究実績として、免疫不全マウスの脳内に培養脳腫瘍細胞を移植する実験系を確立したため、引き続き、in vivoの研究も行っていく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度の研究状況として、ヒト悪性神経膠腫細胞株U-87MG、U-251MGおよび手術患者検体より樹立した神経膠腫幹細胞株の安定した培養環境の他、U-87MG、U-251MGを無血清培地で培養することで作成する神経膠腫幹細胞モデル細胞株Rev-U-87MGおよびRev-U-251MGの樹立ならびに継続培養の系を確立した。これらの細胞株を使用し、indoximodを投与したところ、形態学的変化として神経膠腫幹細胞株のsphereが小さくなり一部接着細胞化すること、および神経膠腫幹細胞のマーカー分子であるNanog、Nestin、Sox2のタンパク発現が減少することを確認した。 このように、予測したindoximodの投与による神経膠腫細胞の分化傾向を確認することができている。また、免疫不全マウスの脳内に培養脳腫瘍細胞を定位的に移植する実験系を確立し、コントロール群において確実に腫瘍が移植されることも確認できている。
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Strategy for Future Research Activity |
研究実績の概要および現在までの進捗状況に記載した如く、indoximod の投与により神経膠腫細胞が形態学的およびタンパク発現において分化傾向を示すことがが確認された。今後、対象細胞株数および標的タンパクの数を増やし、データを蓄積する。また、神経膠腫幹細胞のマーカーだけでなく、分化の指標となるタンパクについても検討を行っていく。さらに、これらの知見に対し、インターフェロンベータの介在等、分化を誘導する機序についても研究を進めていく。また、これらの知見を動物実験系において脳腫瘍移植後免疫不全マウスに対するincoximod治療の効果としても観察していく。得られたデータをまとめ、学会発表を行う予定である。
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Causes of Carryover |
当該年度に使用する予定であった研究費のうち、91,877円を次年度の研究に使用する。理由として、新型コロナウイルス感染症の流行により主要学会がオンライン形式に変更されたことにより、旅費としての使用がなくなり、若干の金額が残余したことが挙げられる。当該年度は研究の立ち上げに要する期間があり、またそのために研究費を使用することが多かった。次年度では、当該年度に確立した実験系を用いて更なる研究の発展が期待される。そこで、当該年度に残余した研究費を次年度の研究費と合わせて、主に消耗品の購入に充てるなどして使用することで、本研究の発展および完成につなげていく予定である。
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