2022 Fiscal Year Research-status Report
段階的分化誘導法による骨格筋筋芽細胞分化過程におけるストレスシグナルの役割の解明
Project/Area Number |
20K18011
|
Research Institution | Tokyo Women's Medical University |
Principal Investigator |
菊地 鉄太郎 東京女子医科大学, 医学部, 助教 (00650805)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 骨格筋 / 筋芽細胞 / 分化 / 筋管形成 / ストレスシグナル / p38シグナル / ERストレス |
Outline of Annual Research Achievements |
骨格筋の再生・修復に関わる筋芽細胞の分化過程にはp38やUnfolded Protein Response(UPR)などのストレスシグナルの関与が示唆されている。これらのストレスシグナルはMyoD発現の上昇等がみられる分化前期と筋線維の形成が起こる分化後期で異なる役割を持つと考えられるが、従来の分化誘導法ではこれらの区別が難しかった。本研究では、筋芽細胞の分化段階を可能な限り厳密にコントロールすることで、各分化過程におけるストレスシグナルの役割を個別に明らかにすることを目的とした。 前年度までにフローサイトメトリーにより筋管形成前の筋芽細胞が増殖型から分化型にシフトする段階を解析する手法を確立し、TGF-βシグナルとERK1/2シグナルは分化抑制に、PI3K-Aktシグナルは分化促進に寄与することを確認した。また、市販の増殖培地で培養した場合でも増殖型と分化型の筋芽細胞が混在していることが分かった。本年度では、ストレスシグナルが筋芽細胞の増殖型・分化型の割合に影響するかどうかを調べた。ストレスを惹起する過酸化水素やBrefeldin Aの添加は分化型の割合を低下させた。しかし、生細胞数が減少していることから、これらのシグナルが分化に影響を与えた可能性と、増殖型と分化型でストレスへの感受性が異なる可能性とが考えられる。一方、p38シグナルのインヒビターであるBIRB796やUPR等のストレスを軽減するとされているTUDCAの添加はストレス下における分化型の割合低下を緩和しなかった。また、非ストレス下での両者の添加では、TGF-βシグナルやERK1/2シグナルの影響に比較して大きな変化はなかった。これらの結果から、筋芽細胞における筋管形成前の増殖型から分化型への遷移過程についてはp38やUPRは主要な制御因子ではないと考えられる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初計画ではヒト骨格筋筋芽細胞を用いた段階的分化誘導法を確立し、各段階での転写因子の発現量の時間的変化と細胞形態・筋線維形成との関係について調べる計画であった。しかし、分化過程の筋芽細胞は単一ではなく、いくつかの細胞群の混合であることがわかったため、フローサイトメトリーによるポピュレーション解析を中心に研究を行うこととした。 本研究の主題である段階的分化誘導については、筋管形成を抑制することが知られているシグナル阻害剤の利用も検討したが、細胞内シグナルへの非生理的な影響が懸念されたため、細胞を疎に播種することで細胞融合を防ぐ方法を採用し、筋芽細胞の筋管形成前のフェノタイプ変化を解析する方法を確立した。本法により増殖因子や阻害剤によるシグナル解析を行うことができた。さらに、フローサイトメトリー解析の中で増殖型と分化型を区別する細胞表面マーカーを発見しており、それぞれの細胞の分取ができる可能性がある。 当初計画とは手法において異なるアプローチとはなったものの、筋芽細胞の段階的分化誘導法と分化前期の解析方法は確立できた。一方で、筋管形成が起こる分化後期における解析は十分にできていないため、総合して研究はやや遅れていると考えられる。
|
Strategy for Future Research Activity |
当初の計画では単一の細胞集団を段階的に分化誘導する手法を確立することを前提としていたが、分化過程における筋芽細胞は単一群と言い難かったため、フローサイトメトリーによるポピュレーション解析を行うこととした。本年度までに筋管形成前の分化前期についてはある程度解析が進んだものの、分化後期でのストレスシグナルの影響は十分に解析できていない。そこで、研究期間を1年延長し、分化後期についても解析を行う。分化後期では細胞融合が生じるため、一般的なフローサイトメトリーでは解析が困難である。そこで、可能な限り細胞を単一群へ純化する必要がある。本年度までに筋芽細胞と非筋芽細胞、増殖型と分化型を区別する細胞表面マーカーは明らかになっていることから、まず、これらのマーカーをもとに細胞の純化を行う手法を確立する。その上で、筋管形成実験を行い、ストレスシグナルが筋管形成に与える影響を評価する。
|
Causes of Carryover |
当初計画より研究が遅延したため、研究期間を1年延長し筋芽細胞の分化後期におけるストレスシグナルの影響を解析する。細胞培養実験に掛かる費用および論文投稿費用として使用する。
|