2021 Fiscal Year Research-status Report
変形性膝関節症滑膜でのヒアルロン酸分解酵素発現と関節液中ヒアルロン酸分解解析
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20K18075
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Research Institution | Juntendo University |
Principal Investigator |
塩澤 淳 順天堂大学, 医学部, 非常勤助教 (30868857)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ADAMTS / HYBID(KIAA1199/CEMIP) / TMEM2 / 変形性膝関節症 / ヒアルロン酸分解 / ヒアルロン酸-アグリカンネットワーク分解 / 細胞外マトリックス代謝 |
Outline of Annual Research Achievements |
変形性膝関節症(膝OA)では、早期より滑膜炎が合併し、関節液中のヒアルロン酸(HA)分解や関節軟骨組織でのHA―アグリカンネットワーク分解により関節軟骨破壊が進行する。本年度は、①OA滑膜組織で発現するアグリカン分解酵素であるADAMTS(a disintegrin and metalloproteinases with thrombospondin motifs)遺伝子ファミリー分子の発現と細胞内シグナル解析および②HA分解酵素HYBID(HA-binding protein involved in HA depolymerization)とその類似分子TMEM2(Transmembrane protein 2)のOA関節軟骨組織での発現解析研究を実施した。得られた主な成果は以下の通りである。 ① アグリカン分解活性を有する9種類のADAMTS分子のOA滑膜組織での発現をRT-PCRで検討したところ、ADAMTS1, 4, 5, 9, 16の発現が観察されたことから、これら分子の発現をリアルタイムPCR法で解析し、ADAMTS4のみが正常滑膜に比較して有意に発現亢進していた。また、培養OA滑膜線維芽細胞でのADAMTS4発現はIL-1α、TNF-α、TGF-βで強く亢進し、これら因子で相乗的に発現亢進した。OA滑膜線維芽細胞をIL-1α、TNF-α、TGF-β刺激し、種々の細胞内シグナル分子阻害剤で処理してADAMTS4発現を検討したところ、ヒト型抗TNF-αモノクローナル抗体(Adalimumab)とTAK1阻害剤、ALK5阻害剤の組み合わせにより完全に阻害されることを示した。 ② OA関節軟骨組織におけるHYBIDとTMEM2の絶対的発現レベルをmRNAコピー数を調べることで検討し、HYBIDのみが正常関節軟骨組織に比べて有意に発現亢進していた。現在、発現調節機構を検討中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究課題のうち、膝OA滑膜組織におけるアグリカン分解酵素(ADAMTS分子)の発現と発現調節機構解析については、共同研究者として参画し、膝OA滑膜組織ではIL-1α、TNF-α、TGF-βの作用でADAMTS4発現は亢進し、AdalimumabとTAK1阻害剤、ALK5阻害剤の組み合わせにより完全に阻害されることを実証し、論文として発表した(Lab Invest 102:102-111, 2022)。本論文は、OA滑膜組織では多種類のADAMTS遺伝子ファミリー分子のうちADAMTS4が炎症性サイトカイン刺激により過剰発現し、関節液を通ってOA関節軟骨のアグリカン分解に重要な役割を果たすことを示すとともに、OA関節軟骨破壊抑制剤開発に基礎的な情報を与えた点で評価できると考えている。一方、ヒアルロン酸分解酵素(HYBIDとTMEM2)のOA関節軟骨組機における発現解析に関しては、TMEM2の発現レベルは正常とOA滑膜組織で有意差がないのに対し、HYBIDはOA関節軟骨組織において約7倍発現亢進していることを認めている。現在、サイトカインでの刺激実験や発現亢進作用機構について検討中である。加えて、本年度は、OA関節組織におけるHA―アグリカンネットワーク分解機構に関する和文総説論文2編を発表してきた(Pharma Medica 39: 19-23, 2021; 整形・災害外科 64:253-261, 2021)。以上より、当研究課題はおおむね順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
研究代表者は、膝OA滑膜組織におけるHYBID過剰発現が関節液中HA低分子化につながることを明らかにし、論文として発表してきた(Am J Pathol 190: 1046-1058, 2020)。一方、膝OA関節軟骨組織におけるHYBIDとTMEM2の発現レベルや炎症性サイトカインによる発現調節機構はなお十分に解明されていないことから、これらに関して検討を進めており、HYBIDのみが発現亢進していることを既に見出している。今後、IL-1α、TNF-α、IL-6などによる発現変化、相乗作用、HA分解活性変化などを検討し、OA関節軟骨組織におけるHYBIDとTMEM2の役割を明らかにする予定である。膝OAの進展に滑膜炎が関わることは、画像診断所見や本研究で得られたHYBIDやADAMTS4に関するデータ(Am J Pathol 190: 1046-1058, 2020; Lab Invest 102:102-111, 2022)が示すところである。これらの研究課題の遂行により、関節液中HA分解や関節軟骨アグリカン分解における滑膜炎の役割がかなり明らかにできたと考えている。そこで、今後はOA滑膜炎発症機構に関して研究を推進する予定である。より具体的には、培養正常滑膜細胞に関節軟骨破壊物質を添加し、マイクロアレイを用いて発現変化をきたす遺伝子を網羅的に解析し、滑膜炎発症に関わる分子機構を検討する。
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Causes of Carryover |
新型コロナ感染症蔓延に伴い参加予定であった国際学会及び国内学会がWeb開催となり旅費が不要であったため。本年度はその予算を用いて、投稿予定の論文投稿費用として支出する予定である。
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Research Products
(5 results)