2021 Fiscal Year Research-status Report
骨細胞のミトコンドリア機能不全による核膜構造異常の分子機構解明
Project/Area Number |
20K18081
|
Research Institution | National Center for Geriatrics and Gerontology |
Principal Investigator |
渡辺 憲史 国立研究開発法人国立長寿医療研究センター, 老化ストレス応答研究プロジェクトチーム, 研究員 (90866766)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 加齢性骨組織変化 / 統合的ストレス応答 / ミトコンドリアストレス応答 / 核構造異常 |
Outline of Annual Research Achievements |
加齢によって起こるミトコンドリア機能不全を起因とした骨代謝制御不全の分子機構を明らかとすることを目的として研究を行っている。本研究では培養骨細胞にミトコンドリア脱分極剤を処理することでミトコンドリア機能不全を誘導し、その時に起こる核構造異常および骨代謝制御因子の発現亢進に注目して解析を行う。 これまでにミトコンドリア機能不全を誘導した時に起こる核構造異常が核膜構造タンパクlamin A/Cとlamin Bの発現低下によって起こり、lamin A/Cとlamin Bを過剰発現して補充することでミトコンドリアストレスを誘導しても核構造は正常のままで、骨代謝制御因子SOSTの発現亢進も抑制出来ることを明らかとした。次にミトコンドリア機能不全と核構造異常および骨代謝制御を繋ぐ因子の特定を試みた。RNA-Seqで網羅的に解析を行ってみたが、ミトコンドリア機能不全によって活性化している転写因子を捉えることが出来なかった。最近、ミトコンドリアストレスによって統合的ストレス応答が活性化することが報告されている。統合的ストレス応答で中心的な役割を担っている転写因子ATF4の核構造異常と骨代謝制御への関与を解析した。ATF4の活性化をsiRNAによるノックダウンや阻害剤によって阻害すると核構造異常とSOSTの発現亢進を抑制することが出来た。これら結果から加齢によって起こるミトコンドリア機能不全による骨量減少の原因因子として転写因子ATF4を特定することが出来た。ミトコンドリアストレスがどのような分子機構によってATF4を活性化しているのか、活性化したATF4がどのようにしてlamin A/Cとlamin Bの発現低下を誘導して核構造異常を引き起こしているのか、さらにSOSTの発現亢進を惹起しているのか明らかに出来ていないので、今後の研究ではこの分子機構を明らかにすることを目的として研究を行っていく。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
RNA-Seq解析からは期待された結果は得られなかったが、骨組織中及び培養骨細胞でミトコンドリア機能不全がATF4を活性化し、培養細胞中でATF4の活性化を遺伝的、薬理学的に阻害すると核構造異常と骨代謝制御因子の発現亢進を抑制することが出来た。さらには予備的ではあるが骨細胞特異的SOD2欠損マウスにATF4活性化阻害剤を投与すると骨量減少が抑制されることも明らかとなった。これらの結果からミトコンドリア機能不全によって起こる核構造異常と骨代謝制御不全において転写因子ATF4が中心的な役割を担っている転写因子だということが明らかとなった。研究計画1~2年目のlamin A/Cおよびlamin B発現低下を引き起こす原因因子を特定するという目標は達成された。2~3年目のlamin A/Cおよびlamin B発現低下分子機構を明らかにするという目標もプロテオスタシス機構などのタンパク質分解機構の解析が進められており、ATF4によるChiP-Seqを行う準備も進んでいる。 これらのことから本研究はおおむね当初の計画通りに進められていると考えられる。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究によって転写因子ATF4とミトコンドリア機能不全による核構造異常の関連性が明らかとなった。しかし、ATF4とlamin A/Cとlamin Bの発現低下と伴う核構造異常とSOSTの発現亢進といった骨代謝制御不全を引き起こす分子機構が不明なままである。lamin A/Cとlamin Bの発現低下やSOSTの発現亢進をATF4が直接関与しているかどうかを評価する。統合的ストレス応答はATF4を介した翻訳抑制を行うことでストレスに対応している。そこでATF4の下流ターゲットである翻訳抑制因子4E-BP1などの発現を解析することで統合的ストレス応答とlamin A/Cとlamin Bの発現低下の分子機構を明らかにする。また、ATF4は転写活性化も行っていることからATF4によって発現制御される骨代謝制御因子をChiP-Seqなどによって解析する。 個体レベルで骨量減少におけるATF4の寄与度を評価する為の準備も進めている。骨細胞特異的SOD2欠損マウスや老齢マウスにATF4活性化阻害剤投与を行う。また骨細胞特異的SOD2欠損マウスとATF4欠損マウスの交配も行っているので、これらの解析によって個体レベルで骨代謝制御不全とATF4の関連性を明らかにする。
|
Causes of Carryover |
年度内に支払う予定でいたが、請求書発行や納品の遅れによって年度内の処理が間に合わなかったため。年度内の処理に間に合わなかった支出に使用する。
|
Research Products
(1 results)