2022 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
20K18286
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
土橋 奈々 九州大学, 大学病院, 助教 (20826333)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 老人性難聴 / 細胞老化 |
Outline of Annual Research Achievements |
老人性難聴は1500万人を超す罹患者を持ち、聴力低下そのものに加え、社会的影響も甚大な疾患である。酸化ストレスの蓄積がその原因と推測されるも、病態解明はなかなか進ま ず、確立された根本的治療法はない。近年の研究から、老化細胞の蓄積が加齢性疾患の発症に強く関与することが明らかとなってきた。本研究では、細胞老化の観点から老人性難聴の病態解明、治療に繋げることを目的とし、内耳老化モデルマウスや老化細胞除去マウスを用いて、老化細胞除去の聴力に与える影響を明らかにするとともに、より効果的な難聴予防・治療のために老化細胞の分泌機能に着目した解析を行う。 老化細胞が増加したマウスに、抗酸化酵素の投与を行うと難聴の進行を妨げる可能性を示唆する報告があるが、細胞老化の聴覚に対する直接の因果関係を示すには至っていない。また、近年、国内外において老化細胞を除去するセノリティック薬などの開発により、動脈硬化などの加齢性疾患で、老化細胞の除去による症状や所見の改善といった成果が認められている。しかし老人性難聴の病態の首座である内耳障害についてはいまだ細胞老化の意義が明らかとなっていない。 本研究では、まず、老化促進マウスSAMP8とそのコントロールであるSAMRマウスを用いて、それぞれの経時的な聴力の変化を評価し、ともに内耳における加齢による老化細胞の蓄積を確認する。老化関連マーカーの検出をおこない、正常細胞から老化細胞へ移行したことを評価する。 次に老化細胞が検出され、聴力低下を認めたマウスに対して老化細胞に選択的細胞死を誘導する活性をもつセノリティック薬を投与する。セノリティック薬投与により内耳の老化細胞が除去されるかを形態学的に確認し、聴力が改善するかどうかを検証し、細胞老化と老人性難聴の関連を検討する計画である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
老化促進マウスとして知られるSAMP8、SAMP1マウスと、そのコントロールであるSAMRマウスに対してABRにて聴力測定を行ったところ、経時的に聴力に差が生じることを確認した。聴力はSAMP8において著明な低下を認め、SAMP1とSAMRマウスには有意な聴力差はなかった。SAMP8マウスでは半年時点で高度難聴を示したが、SAMRマウスでは中等度難聴にとどまり、生後1年でもその傾向が持続していた。 また老化促進マウスにおいて老化細胞の検出を行った。マウスの内耳を還流固定し、脱灰後に凍結切片として切り出し、SA-β gal染色を行ったところ、らせん神経節と内有毛細胞、外有毛細胞に老化細胞の蓄積を認めた。しかし生後3か月と生後9か月の時点でSA-β gal染色の程度に有意差を認めず、先行論文で陽性が認められているp21などの各種細胞老化のマーカーの免疫染色を試みており、条件検討中である。老化関連マーカー老化細胞に選択的細胞死を誘導する活性をもつセノリティック活性をもつ薬剤としてダサチニブ(キナーゼ阻害剤)とケルセチンを経口投与しているが、聴力改善が確認できず、こちらも条件検討中である。
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Strategy for Future Research Activity |
老化促進マウスとそのコントロールのマウスにおいて、経時的に聴力に差が生じること、また同マウスにおいてらせん神経節と有毛細胞に老化細胞の蓄積を認めることを確認した。今後、各種細胞老化のマーカーの免疫染色の条件検討を行う。 またセノリティック薬を用いた聴力改善と老化細胞の除去についても現在条件の調整中である。また、老化細胞を薬剤投与により除去できる機能を得たトランスジェニックマウスであるP16-3MRマウスにおいても老化細胞除去と聴力との関連についてはSAMマウスでの実験が進んだ後を検討しており今後の着手課題である。
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Causes of Carryover |
継続途中の実験があるため、その実験に使用する予定である。
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