2021 Fiscal Year Research-status Report
Pathophysiology and drug development using iPS technology specific to mitochondrial mutation-related deafness
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20K18294
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Research Institution | Juntendo University |
Principal Investigator |
荒井 慎平 順天堂大学, 医学部, 助手 (70836220)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ミトコンドリア遺伝子 / 遺伝性難聴 / 疾患特異的iPS細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
遺伝性難聴は聴覚と言語発育の著しい障害を引き起こす極めて高度なQOLの低下をもたらす。言語習得後の遅発性難聴の原因として、アミノ配糖体に対する易受傷性を示す家系が報告され、ミトコンドリア遺伝子1555A>G変異が同定された。ミトコンドリアは大部分の細胞に存在する細胞小器官であり、核ゲノムとは異なる独自のゲノムを有している。アミノ配糖体による難聴の機序として、アミノ配糖体抗菌薬により主として蝸牛コルチ器が障害を受けることが報告されている。またこの変異によって、アミノ配糖体存在下でミトコンドリアにおける不良タンパク質が増加することも判明している。 順天堂医院での遺伝子検査により診断されたミトコンドリア遺伝子1555A>G変異難聴患者より臨床データを分類し、本学倫理委員会の承認およびインフォームド・コンセントの後、患者血液を収集した。 血液細胞へエピソーマルプラスミドでの遺伝子導入(OCT3/4,SOX2,KLF4,L-MYC,LIN28,p53-shRNA)を行いiPS細胞を樹立。文科省「疾患特異的iPS細胞を用いた難病研究」岡野拠点にて赤松らが確立した手順に準ずる。我々の研究グループが既報したiPS細胞から内耳前駆細胞への分化誘導(Fukunaga, Stem Cell Reports, 2017)とiPS細胞から内耳有毛細胞への分化誘導法(Oshima, Cell, 2010)を改良し、iPS細胞より内耳発達過程の様々な分化度の細胞を作出した。同方法ではiPS細胞の浮遊培養後に接着培養を行い分化制御因子としてDkk1, SIS3, IGF-1(D/S/I)添加培養、その後のbFGF添加後に鶏杯卵形嚢細胞との共培養により分化誘導を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
アミノ配糖体に対する易受傷性を示す遺伝性難聴の原因としてミトコンドリア遺伝子1555A>G変異が同定された。しかしながら、その病態や有効な薬物治療は未だ見出されていない。人工多能性幹細胞(iPS細胞)は様々な細胞に分化できるため、iPS細胞を難聴の標的である内耳細胞に分化誘導することにより難聴の表現型が解析可能となる。申請者の研究グループが独自開発した内耳へのiPS細胞分化誘導法(特許出願済/Fukunaga, Stem Cell Reports, 2017)を応用してミトコンドリア遺伝子1555A>G変異患者iPS由来疾患モデル細胞を樹立し、アミノ配糖体抗菌薬への易受傷性機序の解明と新規薬物治療薬の開発を目指す。 従って、疾患特異的iPS細胞を応用することで遺伝性難聴の病態機序を解明し、新規の治療薬を見出す研究が難聴研究のブレークスルーとなり得る。ミトコンドリア遺伝子1555A>G変異による難聴患者からiPS細胞を樹立し、さらに内耳細胞への分化誘導を行い、正常iPS細胞由来の内耳細胞との形態・機能解析によって疾患特異的な病態が解明できる。また疾患の表現型を示す疾患由来iPS細胞を用いて、表現型を修復させる候補薬剤をスクリーニングする。ミトコンドリア遺伝子1555A>G変異による遺伝性難聴由来のiPS細胞を用いた疾患モデルは疾患の発症メカニズムの解明、さらには新規治療薬の開発に有用となる。
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Strategy for Future Research Activity |
近年の難聴遺伝子の発見によって、原因不明の多種多様な感音難聴が遺伝子異常に起因することが判明されてきた。申請者らは世界に先駆けて代表的な難聴遺伝子の変異モデル動物を開発し、それらの機能解析を展開してきた。現在でも申請者らのグループならびに理研や癌研の共同研究グループが中心となって遺伝性難聴の根本的治療の開発をリードしている。 内耳を標的とした遺伝性難聴では実際の生体試料をヒトから得ることは困難であるため、疾患の発症機構解明や創薬研究が制限されている。疾患特異的iPS細胞作製技術を導入することで患者由来の体細胞から幹細胞を経由し標的細胞へ分化させ、疾患モデルを作成することが可能となった。疾患特異的iPS細胞を用いてミトコンドリア遺伝子155A>G変異による遺伝性難聴の病態解析と創薬研究に応用することは遺伝性難聴の治療のブレークスルーとなる。近年の化合物合成・創薬技術の発展が目覚ましいことから、本研究の疾患モデル細胞が開発されれば、薬剤選抜の条件が整い、内耳への新規薬剤が今後5年以内に開発できることも期待できる。 本研究はミトコンドリア遺伝子155A>G変異による遺伝性難聴の分子病態・機序を解明する突破口を切り開き、根本的治療の現実化に正面から取り組むもので、画期的な技術を駆使している。これらの画期的な企画はこれまで全く創造されていない極めて独創性の高い研究である。この技術が臨床に適用されると、聴覚医学に新しい局面を迎えることができる。難聴に悩み、苦しむ数百万人の患者への大きな福音となり、国民生活の質的向上をもたらす極めて有意義な研究である。
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Causes of Carryover |
以下の実験を本年度に施行予定であったが、COVID-19感染拡大の影響により十分な実験を行う事ができなかったため、これらの実験に必要な使用額を次年度に計上した。 分化誘導した有毛細胞、支持細胞、線維細胞の内耳細胞でのアミノ配糖体によるミトコンドリア膜電位への影響を調べる。同様にこれらの3種類の内耳細胞で産生されるATP量を生化学的に測定し、アミノ配糖体の影響を調べる。また、予備実験にて判明したin-vitro実験系を用いて、ミトコンドリア膜電位の低下を抑制する化合物をスクリーニングし、候補薬剤を探索する。
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Research Products
(3 results)