2020 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
20K18381
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Research Institution | Tottori University |
Principal Investigator |
春木 智子 鳥取大学, 医学部附属病院, 助教 (90838153)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 間葉転換 / 角膜 / 角膜内皮細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
水疱性角膜症は、角膜混濁による失明の原因として重要である。水疱性角膜症は角膜における内皮細胞の機能不全によって引き続き起こされる。その重要な原因として、加齢のみならず単純ヘルペス(HSV)サイトメガロウイルス(CMV)をはじめとする角膜や前眼部の感染がきっかけとなる。こうした角膜内皮細胞の機能障害は角膜内皮細胞の間葉転換をきっかけとして生じいったん間葉転換をおこすと正常な機能は復元できない。そこで、間葉転換を起こす経路のマスター因子を明らかにすれば、この経路の制御を介した新規治療につながる可能性がある。 そこで間葉転換を入れるスイッチを探索するため、再現性を担保し、かつ細胞内の動態を追跡可能なモデルとして角膜内皮細胞へのHSV感染モデルを採用した。この角膜内皮細胞感染刺激モデルを用いて転写ネットワーク解析を行った。その結果、感染モデルネットワークにおいては、Wnt family member 1(WNT1)、Notch、 Smadなどの間葉転換に重要な役割をはたす分子群の関与を見いだした。次に、間葉転換の代表的な指標となる分子としてVimentin, E-cadherinが知られている。そこでこれらが実際に誘導されるかを確認した。これにより、感染モデルが実際に上皮間葉転換の探索に使用できることを確認した。 次に関与転換のマスター制御因子をネットワーク解析により探索し、いくつかの候補を抽出した。これらが実際に間葉転換に関与するかを検証するため、これらの因子のひとつ(X)に対する欠損角膜内皮細胞株を遺伝子編集により作成した。これまで、このX欠損により Vimentin, E-cadherinの誘導が消失することが確認できている。以上より因子Xが間葉転換の重要な因子である可能性が判明しつつある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、角膜内皮細胞における間葉転換を制御することにより、角膜内皮の傷害を防ぐ方策を探索するものである。一般に間葉転換は、初代培養細胞においてよくみられる現象であり、安定した不死化細胞系では完全な間葉転換はおこらないと想定される。しかしながら、角膜内皮初代培養細胞は、検眼されたヒト角膜より分離する必要があり、ロット間の差が大きい。また、現状では SARS Cov-2の感染が今後数年は継続する可能性が高く、十分なqualityの角膜がえられない可能性が高い。 プロジェクト進行に関わるこのような障害をのりこえるためには、安定した角膜内皮培養モデルが必要となる。このため、まず、不死化培養角膜内皮細胞系を用いてこのような間葉転換系をモデル化できないかどうかに着手した。間葉転換のモデルとしてVimentinやE-cadherinの発現やそのプロモータ活性が間葉転換のマーカーとしてよく使用される。そこで感染モデルにおいて、これらの転写、タンパク発現誘導がかかるかどうかを検証した。その結果、これらの誘導がみられることが確認できたため、このモデルを用いて検証を進めつつある。このモデルを用いて、包括的転写解析に基づくネットワーク解析の手法により上流の制御因子群をupstream解析を用いて探索した。その結果、いくつかの候補因子群をえることができた。次にそのうちの一つを用いて遺伝子編集技術を用いて欠損角膜内皮細胞株を作成した。次にこの細胞株を用いて、間葉転換の制御機序の探索に進みつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
間葉転換は、一般に初代培養細胞系でみられる現象であり、安定して間葉転換実験系を探索的に確立することは困難である。ひとまず、この技術的問題点を回避するため、本研究においては、不死化培養角膜内皮細胞系を用いて間葉転換の制御機構を探索することを考えた。この培養細胞系においては、ウイルス感染刺激において、VimentinやE-cadherinの誘導が安定的に観察できることを確認できている。このことは、探索の多くのプロセスをこのモデル細胞系を用いて探索できることを示唆している。 この探索のためには、Vimentinや E-cadherinの発現のみならずその上流の転写因子の解析を含むが、これらの因子群の解析には、plasmidによる過剰発現系やsiRNA, miRNAのtransfection, さらなる遺伝子編集細胞の確立が一般的な方策となる。しかしながら、初代培養細胞を用いた場合、これらのtransfectionにくわえ、感染刺激自体が細胞に対する障害が強く、安定的なデータ取得が困難である可能性、さらには細胞株樹立コストが大きな問題となる。 不死化内皮細胞培養系は完全な間葉転換をおこして細胞の性質が変わってしまう系ではない。しかしながら、間葉転換にかかわる因子群の追跡は十分可能ではないかと考えている。再現性、コスト面を考えて、そこで本プロジェクトにおいては、詳細な分子制御機序は不死化培養系を用いたVimentinや E-cadherinの誘導、プロモータ活性に焦点をあて解析をすすめていきたいと考えている。最終的な間葉転換の制御の確認段階において、候補因子群の機能確認として初代培養角膜内皮を用いるのが有効ではないかと考えている。
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Causes of Carryover |
SARS Cov-2の感染拡大により予定していたアメリカからの輸入角膜を購入することができなかったため、次年度使用額を生じた。次年度以降で使用再開でき次第、ヒト角膜を用いて、角膜内皮初代培養細胞から間葉転換系をモデル化し、間葉転換の制御機序の探索を行う。
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