2022 Fiscal Year Research-status Report
難治性リンパ浮腫の発症におけるTRPチャネルの関与とその分子機構
Project/Area Number |
20K18415
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Research Institution | Wakayama Medical University |
Principal Investigator |
上野 一樹 和歌山県立医科大学, 医学部, 助教 (30817028)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | TRPV1 / TRPイオンチャネル / 創傷治癒 / リンパ浮腫 / 好中球 / NETs |
Outline of Annual Research Achievements |
TRPV1は、皮膚に発現が認められており、痛みや化学物質のセンサーとしてだけでなく、炎症誘導と抗炎症作用の双方に影響を有すると推察されている。リンパ浮腫のメカニズムとして慢性炎症が着目されており、予備実験として、TRPV1と皮膚創傷治癒過程における炎症の関連性について検討した。 実験には、Trpv1遺伝子欠損(KO)マウスと野生型(WT)マウスを用いた。それぞれの背部皮膚に直径5.0mmの円形の全層皮膚欠損創を作製した。皮膚欠損創作成後(POD: post-operative days; 0、2、4、7、10、14)、肉眼的観察、組織学的解析から治癒過程を評価した。 POD7と10の時点では、KOマウスは皮膚欠損の範囲が広域であった。POD7におけるKOマウスの再上皮化は、WTマウスに比べ遅延していることがHE染色で観察された。炎症期に動員され一般的に漸減するとされる好中球数は、WTマウスにおいてはPOD4からPOD7にかけて減少を認めたものの、Trpv1 KOマウスでは減少が観察されなかった。マクロファージ数は明らかな差を認めなかった。H3Citで標識されたNETs(Neutrophil Extracellular Traps)形成は、POD4およびPOD7の両方で、WTマウスと比較してTrpv1 KOマウスで増加した。以上の結果より、TRPV1チャネルは、好中球性の炎症反応を制御する、マウス皮膚創傷治癒に重要なTRPチャネルである可能性が示唆された。 また、治療効果などの判定を可能とする優れた慢性リンパ浮腫モデルが求められていることから、慢性的な浮腫形成モデルを樹立し,術部に対する可視的な解析を経時的に可能とする実験系を開発することとした。マウスの尾に対して皮膚欠損を作成し、欠損部に透明なシリコンシートを挿入することで、慢性的な浮腫形成を再現する事が初めて可能となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
革新的な慢性リンパ浮腫モデルを作成することで、慢性リンパ浮腫部の可視的な解析を経時的に行うことに成功した。また、TRPV1と皮膚創傷治癒過程についての予備実験を行ったことで、TRPV1が皮膚の炎症制御に関わっている可能性が示唆された。今後、リンパ浮腫におけるTRPV1チャネルの役割を精査するにあたり、十分な準備が整ったといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
TRPV1 KOマウスの尾部で慢性リンパ浮腫モデルを作成し、正常マウスと比較することで、リンパ浮腫におけるTRPV1の役割を明らかとする。また、TRPA1,TRPM2 KOマウスにおいても、TRPV1と同様に皮膚創傷治癒過程の精査を行った後、尾部慢性リンパ浮腫モデルの作成を行い、正常マウスと比較する。 また、皮膚創傷部と浮腫部において、先行研究で変動が認められた因子を中心に、そのmRNAとタンパク質の発現動態をそれぞれreal-time RT-PCRとウエスタンブロット法で測定する。また、タンパク質については、創傷部と浮腫部における発現分布を免疫組織化学的に調べる。
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Causes of Carryover |
次年度以降に、この結果を受けて、浮腫形成には微細な血管系のin vitro解析が必要であることから、培養系(explant culture)などの開発にも着手する予定である。また、臨床応用に向けて、創傷治癒や浮腫形成における各種の制御因子の導入を目指しており、創傷部や浮腫部に侵襲性の少ない超音波導入法(ソノポレーション法)の使用を検討している。また、他のTRPチャネルについても解析を行う予定である。以上の理由から次年度使用額が必要である。
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