2020 Fiscal Year Research-status Report
Physiological and pathophysiological roles of ferritin for cellular senescence in periodontal tissue
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20K18534
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
池上 久仁子 大阪大学, 歯学部附属病院, 医員 (80779116)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 歯周病 / Ferritin / 鉄 / 歯根膜 / 老化 |
Outline of Annual Research Achievements |
歯周病の発症と進行において、加齢は重要なリスク因子の一つである。細菌バイオフィルム、咬合力などの環境ストレスの蓄積がエピジェネティックな変異を歯周組織のゲノムDNAに惹起し、細胞老化が誘導される。申請者は “高齢者における歯周病の病態形成には、老化細胞が関与している”との仮説のもと、歯周組織における老化細胞の機能解析に取り組んでいる。そこで、歯周組織における老化関連分子のcDNAスクリーニングをおこなったところ、ヒトの老化歯根膜細胞においてFerritinの発現が増加していた。Ferritinは、血清中に多く含まれ、肺や肝臓など分布するタンパクであり、細胞質内の有害な二価鉄を無害な三価鉄に還元し貯蔵する役割を担う。そして、哺乳類の細胞は、鉄過剰時にはFerritinの発現を増加させ、余剰な鉄を安全に貯えることで鉄の細胞毒性を回避していることが報告されている。 申請者の所属する研究室で実施した歯根膜の遺伝子の網羅解析により、Ferritinは発現上位の遺伝子であったことから、Ferritinが高齢者の歯周組織の恒常性維持に重要であることが示唆されたと。また、Ferritin-鉄代謝は、活性酸素(Reacive Oxygen species : ROS)産生の制御に関係することから、歯周組織内には鉄―酸化ストレスの増大した老化細胞が増加していることが予想された。 研究開始初年度の2020年は、ヒト歯根膜細胞の細胞老化がFerritin代謝に及ぼす影響、ならびにFerritinが老化ヒト歯根膜細胞の細胞機能に及ぼす影響について解析を実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究開始初年度の2020年は、ヒト歯根膜細胞のin vitro複製老化過程におけるFerritin-鉄の制御機構を検討した。初代ヒト歯根膜細胞(HPDL)の複製老化の誘導により、老化HPDLを得た。老化HPDLは、HPDLと比較し、Ferritinの構成タンパクであるFTLとFTHの遺伝子発現ならびにタンパク発現が増加していることを確認した。 他の鉄代謝に関わる他分子の発現を検討した結果、細胞内への鉄の取り込みを担うトランスフェリンレセプター(TfR1)の遺伝子発現ならびにタンパク発現は老化HPDLにおいて増加を認めた。鉄の排出に関わるフェロポーチン(FPN)の遺伝子発現は、老化HPDLにおいて増加を認めた。生体内ではTfR1とFerritinの発現は、細胞の鉄存在量に応じて変化させ、鉄不足・鉄過剰状態を生じないように調整している。まず、Ferritinが老化ヒト歯根膜細胞の細胞性機構に与える影響についての解析を行った。正常HPDL(継代数<10)に鉄の添加を行ったところ、FTHのタンパク発現が増加し、鉄キレート剤であるdeferoxamine(DFO)の添加によりその発現は低下した。TfR1タンパク発現は鉄の添加により減少し、DFOの添加によりその発現は低下した。本来、鉄過剰状態であればTfR1が減少し、Ferritinが増加するが、興味深いことに、老化HPDLでは、TfR1とFerritinの両方が増加していた。これらの結果より、老化HPDLにおいては、鉄の蓄積ならびに代謝の異常が示唆された。以上のことから、老化に伴うferritinの変動の原因は、細胞質中の鉄の変動のみが原因ではなく、他の制御機構が働いている可能性が示唆された。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年は、前年度に引き続き、Ferritin-鉄の制御機構をヒト歯根膜細胞のin vitro複製老化モデルを用いて検討する。具体的には、継代数の異なるHPDLにおける鉄の蓄積量を、細胞内鉄イオン測定試薬FerroOrangeを用いてモニタリングする事で、老化HPDLにおける鉄代謝機構解明のプラットフォームとする。これに、P.g.由来LPS刺激や、メカニカルストレスを模した細胞伸展などの老化ストレスを誘導し、Ferritinの発現量、鉄の蓄積量をモニタリングする。また、ferritinの変動の原因の1つとして、老化関連miRNAである、miR-155により抑制制御されることが明らかとなっている。Ferritinの発現量が低く、継代数の少ない正常HPDL(継代数<10)にmiR-155のinhibitor(hsa-miR-155の相補配列で阻害作用をもつoligos)の添加を、Ferritinの発現量が多い老化HPDLにmimic(hsa-miR-155のRNA配列を模倣した人工合成origos)を添加し、Ferritinの発現量をモニタリングするとともに、ROSの産生、炎症応答、歯根膜幹細胞の自己複製能力ならびに多能性について解析を行う。 次に、生体での歯周組織のferritin-鉄制御機構を検討する為に、老齢マウスのP.g.感染歯周炎モデルを用いて検討する。老齢野生型マウス(C57/BL6)の歯周組織にP.g.菌を感染、絹糸を結紮することでマウス歯周炎モデルを構築する。顎骨のmicro CT計測後に、歯周組織切片を作製し、HE染色、老化マーカーであるSA-betaGAL染色、抗Ferritin抗体ならびに鉄染色キットを用いた免疫組織学的解析により、老化歯根膜における鉄蓄積と老化について検討する。同実験を、鉄キレート剤DFOの静脈注射投与群においても検討する。
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Causes of Carryover |
2020年度はCOVID-19感染拡大防止の観点から、研究施設のある大阪大学での活動規定において「実験・研究の継続に必要最小限の研究関係者のみ立ち入り許可」の制限を受け、実際の実験計画より遅延をきたした。2021年度には、2020年度に購入・使用予定であった染色試薬ならびに抗体・プライマーをはじめとする実験試薬や動物を必要物品として購入する予定である。 また、COVID-19感染拡大防止の観点から、学会がオンライン開催となったため、旅費の支出が0となった。2021年度は現地開催の学会に参加し、情報収集並びに研究成果の報告を行う予定である。
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Research Products
(6 results)
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[Journal Article] 高齢双生児の歯周病病態と遺伝・環境要因の影響度2020
Author(s)
池上 久仁子, 山下 元三, 三木 康史, 久留島 悠子, 高阪 貴之, 鈴木 美麻, 榎木 香織, 松田 謙一, 北村 正博, 池邉 一典, 大阪ツインリサーチグループ, 村上 伸也
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Journal Title
日本歯科保存学雑誌
Volume: 63
Pages: 236~244
DOI
Peer Reviewed / Open Access
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