2020 Fiscal Year Research-status Report
還元ストレスをiPS細胞の分化誘導に応用した新規骨再生技術の開発
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20K18624
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
渡辺 隼 東北大学, 大学病院, 助教 (30822241)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | iPS細胞 / 骨芽細胞分化 / 還元ストレス / レドックスバイオロジー |
Outline of Annual Research Achievements |
広範な顎骨欠損を回復する骨再生技術の開発は、歯科補綴学の発展にとって重要な課題である。人工多能性幹細胞(iPS細胞)は自己組織化により、試験管内で三次元的な石灰化骨様組織を形成する。しかし、骨芽細胞分化誘導効率の低さが課題である。近年、細胞内還元ストレスを引き起こす生理活性物質が同定され、酸化ストレスを制御するだけでなく、幹細胞の運命決定に重要な役割を担うことが示唆されている。そこで、iPS細胞の骨芽細胞分化誘導過程において、細胞内に適度な還元ストレスを与えることで分化誘導を促進するアプローチを着想した。その方策として、骨芽細胞分化誘導において還元ストレスを与えることが可能な、活性イオウ分子種産生経路に作用する求電子性化合物を用いる。本研究の目的は、還元ストレスを応用したiPS細胞の骨芽細胞分化誘導技術を開発し、新たな顎骨再生技術の基盤を確立することである。 初年度では、まず、iPS細胞の骨芽細胞分化過程における酸化還元状態の評価を行った。骨芽細胞分化誘導初期は後期と比較して、単位細胞当たりの酸化ストレスが低下していることが認められた。これは、骨芽細胞分化が進むにつれて細胞増殖能が低下しているためだと考えられる。次に、求電子性の化合物をiPS細胞の骨芽細胞分化誘導培地に添加したところ、培養14日目および21日目においてAlizarin Red陽性領域の増加を認め、定量評価にて非添加群と比較し有意に添加群で石灰化の促進を認めた。本研究成果は、還元ストレスがiPS細胞の骨芽細胞分化を促進している可能性を示す知見であり、これを基に次年度の研究を展開する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
初年度に予定していた求電子性化合物の選定および濃度、作用時間等の最適化を行い、いくつかの候補条件が得られた。しかし、条件の最適化に予想より時間がかかったため当初予定したレドックスバランスの詳細な検討はできていない。次年度は、骨分化能の評価と並行してレドックスバランスの詳細な検討を行う予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度ではiPS細胞の骨芽細胞分化過程における還元ストレスを含む細胞内レドックス環境の評価、還元状態がiPS細胞の骨芽細胞分化に及ぼす影響および、細胞内レドックス制御により分化誘導した骨芽細胞の生体内における機能の検討を下記の方法で行う。 1. iPS細胞の骨芽細胞分化過程における還元ストレス状態の評価; マウスiPS細胞において当研究室で確立している骨分化誘導法に則り、各分化段階における還元ストレス応答性分子の発現および細胞内レドックスバランスを解析する。活性イオウ分子種によるレドックスシグナル制御分子であるシスタチオニン-β-シンターゼ、シスタチオニン-γ-リアーゼ等の発現をReal-time RT-PCR法およびWestern blotting法で評価する。レドックスバランスは活性酸素種量の測定および、還元的代謝経路に関連する分子であるサイクリックGMP、ヒスチジン、シスチン、セリン等のメタボローム解析を行う。 2. 還元ストレスがiPS細胞の骨芽細胞分化に及ぼす影響の検討; iPS細胞を前述と同様の骨芽細胞分化誘導培地中で培養する。骨芽細胞分化能および骨基質産生能を評価する。骨芽細胞分化能は、ALP染色および、runx2、osterix、 osteocalcin等の骨芽細胞分化関連遺伝子の発現についてReal-time RT-PCR法で解析する。骨基質産生能は比色法によるカルシウム定量、Alizarin red 染色を用いて評価する。 3.生体内における得られた骨芽細胞の機能評価; 上記の結果より最適化した分化誘導法により得られたiPS細胞由来骨芽細胞の骨再生能を大規模マウス頭蓋骨欠損モデルを用い、組織学的(HE染色、免疫染色)および、マイクロCT(骨形成、骨密度評価)にて検証する。
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Causes of Carryover |
当初参加を予定をしていた学会がweb開催となったため、その分の旅費がかからなくなったため、差額が生じた。in vitroの評価が予定より遅れているため、次年度は差額分を物品費に使用する必要がある。
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