2021 Fiscal Year Research-status Report
口腔粘膜上皮の異型形質獲得過程における上皮―間質クロストーク
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20K18741
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Research Institution | The Nippon Dental University |
Principal Investigator |
辺見 卓男 日本歯科大学, 生命歯学部, 助教 (20814883)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 口腔癌 / 扁平上皮癌 / 早期悪性病変 / 腫瘍性異型 / 反応性異型 / 腫瘍間質 / 癌微小環境 |
Outline of Annual Research Achievements |
口腔癌(口腔粘膜の扁平上皮癌)は、周囲組織への浸潤に加え早期に頸部リンパ節へ転移する傾向が強いことから早期発見が重要である。一方で、口腔粘膜は外来刺激による慢性炎症が重なっており、病理組織標本で初期の腫瘍性変化を見極めることは難しい。本研究では、粘膜上皮が癌化する過程で、上皮由来の異型細胞と非腫瘍性(間質)細胞との相互作用が鍵になると想定し、早期の粘膜表在性病変における異型上皮-間質要素間相互作用の分子基盤を明らかにすることを目指している。前年度までに、口腔癌の疑いで全摘切除された舌病変の組織診標本を用いて、異型上皮の指標となるCytokeratins(CK13, CK17), E-cadherin, p53, Bmi-1, Ki-67等の免疫組織化学的検索を行い、異型上皮領域の分子発現パターンを明らかにしてきた。 今回、組織表現型検索では、上皮組織環境に影響を及ぼしうる間質要素に焦点を当て、粘膜組織に存在する抗原提示細胞(樹状細胞やLangerhans細胞)、脈管内皮細胞の挙動を追跡した。この解析では、通常の病理組織標本観察に加え、連続薄切切片からの立体構築法を用いて健常粘膜~異形成病変組織における抗原提示細胞の空間分布も明らかにした。一方、粘膜炎の動物モデルで炎症性・腫瘍性の異型組織環境を比較解析する計画については残りの研究期間を踏まえて見直しを図っている。最終年度では、口腔粘膜組織を模倣したオルガノイドモデルを作出して、異型変化に関わる分子要素の検索を目指す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
初年度に引き続き、COVID-19拡大の影響で必要資材の調達に難航し、動物実験を計画通りに進めることが困難であった。代替として、可能な限り収集済みのヒト症例を用いて、間質要素マーカーを中心に組織所見の検索を継続した。健常粘膜~異形成病変では、樹状細胞やLangerhans細胞などのHLA-DR陽性抗原提示細胞が上皮層肥厚と異型度に連動して密度を増す傾向が捉えられた。特にLangerhans細胞マーカーとなるLangerin発現に絞った局在観察では、健常上皮と異型上皮におけるLangerin陽性細胞の局在に違いはみられなかったが、連続薄切切片を用いた3次元構造解析により、異型上皮と健常上皮の境界領域においてLangerin陽性細胞の密度亢進が生じていることを確認できた。また、腫瘍間質要素として注目されるリンパ系の高内皮細静脈(HEV)に類似した脈管表現型について、6-sulfo sialyl Lewis X糖鎖抗原の特異抗体により陽性局在を確かめたところ、炎症細胞の集簇する部位にHEV様血管の出現を認めた。今後の分子基盤解析の参考となるデータを得ることは達成できたと考えている。 動物を用いた粘膜炎実験については、実験条件検討から試料採取・解析まで概ね2年間を想定していたため、動物モデルを作出して病態解析を行う計画自体を見直す必要があり、今回の研究期間中に組織表現型解析と併行して動物実験の代替案の検討を開始している。その他、前年度に予算使途変更して新調したマイクロプレートリーダーについては、今後の実験に合わせた調整を進めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
動物モデル解析は計画を見直して粘膜炎病態における上皮間質挙動の基礎データを採取するに留め、研究代表者の出身研究室と連携して口腔粘膜組織オルガノイドの作製に着手している。今後の実験計画として、口腔粘膜組織由来の上皮細胞株、線維芽細胞株に加え、血管内皮細胞、リンパ管内皮細胞を用いたオルガノイドゲルを作製し、組織損傷を想定した物理刺激に対する応答を比較検討していく。元々動物モデルを用いて「腫瘍性」と「反応性」の異型状態や「腫瘍性+反応性」の複合病態を設定し、形態変化と分子発現の比較解析を試みる計画であったため、オルガノイド環境においても、上皮細胞への変異刺激導入を試み、健常粘膜オルガノイド、異形成オルガノイドの比較解析を目指す。得られたオルガノイド組織試料では、分化・増殖シグナル経路および代謝活性の指標となる転写因子群、特に早期転移の指標としてリンパ管内皮の形質変化に注目し、形態観察と併行して分子発現解析を進める。ここで得られたマーカー候補分子については、研究代表者が先行研究で確立した診断マーカーの統合解析システムを応用して、順次粘膜組織における発現分布の検証および局在パターンのロジスティック解析にて相関を確かめる。
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Research Products
(5 results)