2022 Fiscal Year Research-status Report
ダウン症候群における歯周病の病態予測にユビキチンリガーゼPDLIM2は有効か?
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20K18768
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
矢口 学 日本大学, 松戸歯学部, 専修医 (90732181)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | Down症候群 / 歯周病 / ユビキチンリガーゼ / PDLIM2 / NF-κB |
Outline of Annual Research Achievements |
Down症候群(DS)はその特徴的な遺伝的背景により免疫応答の異常が認められ,重篤な歯周病が持続しやすいが,その機序は未だわかっていない。本研究は,NF-κBを不活性化することで炎症反応を負に制御するユビキチンリガーゼPDZ and LIM domain protein-2(PDLIM2)が,DSにおける歯周病の病態形成にどのように関わっているのかを明らかにすることを目的とした。しかしながら,これまでに歯肉線維芽細胞においてPDLIM2に関連した報告はない。そこで,歯肉線維芽細胞においてもPDLIM2が炎症反応を抑制し得るかを明らかにし,本研究を遂行するための足がかりとした。 その結果,ヒト歯肉線維芽細胞HGF-1において恒常的にPDLIM2が発現していることが確認された。一方,歯周病原菌P. gingivalis由来LPS刺激によってPDLIM2遺伝子発現およびタンパク発現は濃度依存的に減少した。さらに,siRNAを用いてPDLIM2をノックダウンさせたHGF-1においてLPS刺激でIL-8遺伝子発現がコントロールと比較して有意に上昇した。以上より,ヒト歯肉線維芽細胞においてPDLIM2がLPSによって誘導される炎症応答を抑制的に制御している可能性が高いと考えられた。 次に,健常者由来歯肉線維芽細胞(NGF)とDS由来歯肉線維芽細胞(DGF)の比較では,LPS刺激によるIL-6,IL-8,TNF-α遺伝子発現がDGFで有意に上昇した。さらに興味深いことに,NGFと比較してDGFでは無刺激時にPDLIM2発現が有意に低いことが示された。従って,DSにおける重篤な歯周病の病態形成には,炎症反応に対して抑制的に働くPDLIM2の低発現が深く関与している可能性が高いことが予想された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
siRNAによるPDLIM2発現ノックダウンの実験条件が確立できたことにより,NF-κBの活性化を抑制するPDLIM2がヒト歯肉線維芽細胞においても炎症応答を抑制的に制御している可能性を示す新たな知見が得られたことは,本研究計画を展開していくにあたり,重要な足がかりになったと考えている。さらに,Down症候群(DS)由来歯肉線維芽細胞(DGF)における恒常的なPDLIM2の低発現という結果が得られたことは大変興味深いと考えられる。昨年度に引き続き,本年度も重度の歯周病を有した成人DS患者由来の複数の臨床サンプルから歯肉線維芽細胞の初代培養の確立ができたため,歯周病を有さない小児DS患者由来歯肉線維芽細胞との比較検討を行っている。これらの結果から歯周病の有無によるDSにおける免疫応答性の個体差を明らかにすることができれば,健常者における歯周病の病態解明にも応用できるものと考えられる。しかしながら,DGFにおけるPDLIM2の役割ついて詳細な検討までには至っておらず,やや遅れているものと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究結果より,ヒト歯肉線維芽細胞においてPDLIM2がLPSによって誘導される炎症応答を抑制的に制御している可能性が高いことが示された。しかしながら, PDLIM2が歯周病の病態形成にどのような影響を与えているかは未だ不明である。引き続き,PDLIM2ノックダウンによるP. gingivalis由来LPS 刺激に対するNF-κB p65の核移行や関連するタンパクをウェスタンブロット法を用いて確認し,歯肉線維芽細胞におけるPDLIM2の働きをより明確にする。さらに,Down症候群(DS)由来歯肉線維芽細胞(DGF)におけるPDLIM2の低発現が明らかになったことから,DGFではPDLIM2がうまく機能しないことでNF-κBの異常活性化が起きている可能性が予想される。そこで,PDLIM2と共同してNF-κBを分解することが報告されているPDLIM7,MKRN2,HSP70,BAG1(プロテアソーム結合タンパク質)の発現も同様に検討する予定である。
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Causes of Carryover |
本年度は細胞培養,遺伝子発現ならびにタンパク発現解析が主体であり,経費の主要な用途は,主に消耗品である。培養培地,抗生物質,ウシ血清や培地用ディッシュ,ピペットやチップなどのプラスチック器具,real time PCR関連試薬類,抗体などに使用した。 一方,年度末に納期未定だった抗体などの試薬の購入を中止したことにより差額が生じた。 次年度は,real time PCR関連試薬類に加えて,タンパク発現解析で使用する抗体などに使用する。
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Research Products
(6 results)