2021 Fiscal Year Research-status Report
口腔科学的知見に基づく新規アスリートコンディション評価法開発にむけた実測調査
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20K18824
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Research Institution | Tokyo Medical and Dental University |
Principal Investigator |
田邊 元 東京医科歯科大学, 東京医科歯科大学病院, 医員 (00844341)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | コンディション / 脱水 / 口腔粘膜湿潤度 / 歯周病 / スポーツ歯科 / スポーツ科学 |
Outline of Annual Research Achievements |
スポーツの現場では、さまざまなコンディション指標が存在するが、絶対的な評価項目はなく、多角的で迅速かつ簡便な評価システムの開発が求められているのが現状である.口腔領域はアクセスビリティに優れ、比較的検体採取の障壁が少ないため、この口腔領域の変化・変動をコンディション評価に活用できれば、現場実装の可能性を秘める。そこで既存のアスリートの主観的・客観的コンディション指標の推移と口腔内サンプリングによる新規コンディション評価の関係について明らかにし、コンディション評価の妥当性や実現性に関する実測調査を開始した。 トライアスロン合宿期間中(これまで2年間でのべ5回測定)に、定時に選手の主観的コンディションチェックシートの記入、起床時体重・体温、心拍数、SpO2、尿比重を採取した。また、口腔領域では、口腔領域の主観的コンディションチェックシートの記入、唾液検体の採取後にコルチゾールやS-IgAの測定、簡易型LDH測定、唾液中ヘモグロビンの測定、歯周病検査、咬合力検査、口腔粘膜湿潤度の計測、口腔内表面温度、舌血流の評価を行った。さらに合宿期間中の運動強度(Session-rating of perceived exertion)や気温などの環境を記録し、口腔内領域の指標のうちコンディション指標として活用が可能なものについて探索的研究を行い、以下2点の知見を得た。 ・代表合宿の期間中における高強度トレーニングは、歯周組織の炎症変化に大きな影響は与えなかったが、口腔内の慢性炎症が選手自身の疲労や免疫反応に影響する可能性が示唆された。 ・尿比重と口腔粘膜湿潤度には相関関係を認め、回帰式より脱水の指標となる口腔内湿潤度の値を予測することができた。さらに、水泳中におけるリアルタイムの脱水評価が難しいという課題に対し、水泳直後のプールサイドで口腔粘膜湿潤度による測定評価が可能であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
トライアスロン合宿期間中(のべ5回測定)に、アクセスビリティに優れる口腔領域の指標と既存のアスリートの主観的・客観的コンディション指標の推移と関連性について探索的にフィールド調査を継続して行ってきた。 口腔内の炎症の面積値の大きい選手ほど、合宿終盤での疲労度の蓄積し、唾液中S-IgA濃度の減少傾向を認めた。アスリートに対して大会や合宿での良好なコンディションを維持するための施策のひとつとして,口腔内の炎症を改善しておく重要性が考えられた。この成果は第152回日本歯科保存学会で発表を行った。 尿比重と口腔粘膜湿潤度には相関関係を認め、回帰式より脱水の指標となる口腔粘膜湿潤度の値を予測することができた。口腔内水分計を用いた口腔内湿潤度はスポーツ活動時の脱水評価の簡便な1指標となることが示唆された。この成果は第31回日本スポーツ歯科医学会で発表を行い、学会賞を受賞し、論文化した。(Chemosensors 2021; https://doi.org/10.3390/chemosensors9080196) 口腔粘膜湿潤度測定にはテクニカルセンシティブな面があり、現在安定した測定のための手技の規格を検討している。測定レンジもスポーツの現場に特化できないか検討している。一方で、水泳中におけるリアルタイムの脱水評価が難しいという課題に対し、水泳直後のプールサイドで口腔粘膜湿潤度による測定評価が可能であることを2021年度体力医学会で報告した。 唾液中乳酸脱水素酵素量は、主観的疲労度や主観的筋肉痛との間には正の相関が認められ、筋損傷の現場でのコンディション評価の一助となる可能性がある。この成果は第31回日本臨床スポーツ医学会で発表を行った。さらに口腔表面の温度データや血流量データについて本年度より追加で計測した。これらについては現在解析中であり、最終年に学会発表および論文化を目指す。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度も引き続き、スポーツ現場での、アクセスビリティに優れる口腔領域の変化・変動にスポットを当て、アスリートの主観的・客観的コンディション指標の推移と関連性について実測調査を継続していく予定である。 これまでのデータの再測定によって過去2年間に得られた知見の上積みを狙うとともに新たに、唾液検体の採取後の各種バイオマーカーのELISAでの評価(S-IgA、IL-6、IL-10、ヒトウテログロブリン、LL-37、βディフェンシン2といった炎症性メディエーターの定量化)、唾液腺の分泌能による評価や発声による評価を検討している。また、水泳中の脱水評価が少ない中で、口腔粘膜湿潤度の活用が示唆されたため、真水/海水や室内/室外さらには水温などの条件設定を明確にした実測を行う予定である。 これまで得られた基礎データについては学会発表および論文化し、成果をスポーツ現場を含め多方面に発表する。これまで研究でとりあげた測定機器は、口腔歯科疾患をスクリーニングするために開発されたものが多く、これらの測定レンジをよりスポーツの現場に特化したものに改良できないか取り組んでいく予定である。
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Causes of Carryover |
コロナウイルスの感染拡大状況を鑑み、予定していた実測調査の回数を減らさざるを得なかったため、翌年度の繰り越しが発生した。
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