2020 Fiscal Year Research-status Report
交替勤務従事者に生じる概日リズム障害の改善を目指した新たな動物モデルの確立
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20K18866
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Research Institution | University of Occupational and Environmental Health, Japan |
Principal Investigator |
後藤 元秀 産業医科大学, 産業生態科学研究所, 助教 (90461558)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 概日リズム睡眠障害 / 交替勤務 / がん悪液質 / モデル動物 / ヒト胃がん細胞株 |
Outline of Annual Research Achievements |
概日リズム睡眠障害は交替勤務従事者に起こる代表的な健康影響であり,労働時の覚醒度低下や不眠といった労働安全衛生上の問題を生じる.その病態生理の解明には,体内時計の自由継続性が保たれつつ同調性が失われた状態を再現したモデルが必要であるが,既報の概日リズム障害モデル動物の多くは病態表現型が異なるものである。これまでに、ヒト胃がん細胞株(85As2細胞)を移植したがん悪液質モデルマウスの検討で,通常の12時間明暗サイクル環境下で明期の活動量が増加することを見出した。そこで、このモデル動物を交替勤務型概日リズム障害モデルとして適正化する目的で移植細胞量の検討を行った。オスBALB/c nudeマウス腹皮下に85As2細胞を移植し移植後2週目よりケージ内行動量測定を行ったところ、総活動量については最大移植量(2×10^6cells/匹)と最小移植量(2x10^5cells/匹)との間に有意な差は認めず、かつ最小移植細胞量でも移植後5週から活動位相の逆転を認めたことから、2x10^5cells/匹をモデル動物としての移植細胞量として設定した。次に、飼育環境の光サイクルを消失させた状態、すなわち恒明条件下(LL)あるいは恒暗条件下(DD)で飼育した際の活動開始-終了位相について検討したところ、LL環境下およびDD環境下のいずれにおいても、移植群では対照群よりも活動開始-終了周期が短縮していた。LL/DDの光環境から通常の光サイクル環境下に戻しても移植群で短縮した活動開始-終了周期は光サイクルに同調することなく維持されていた。以上の結果から、85As2がん細胞の移植は概日リズム周期を短縮させること、またその作用は位相に同調しないことが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ヒト胃がん細胞株85As2を移植したマウスでは、移植後の週齢が進むにつれ、がん悪液質の影響から総活動量も低下することが明らかとなっていた。そこで、活動量の低下を最小限にとどめ、かつ明期、暗期の活動量の変化が認められる条件の設定が必要であった。初年度計画では移植するがん細胞数の移植量の調整を行い、総活動量を健常時の80%以上に維持しつつ活動位相の逆転が出現するよう条件設定を検討し、2x10^5cells/匹をモデル動物としての移植細胞量として設定することができた。85As2がん細胞を移植したマウスの活動位相逆転の原因として、①内在性の概日リズムの異常、②外部環境(光の明暗リズム)への同調性の異常など、が考えられたことから、85As2がん細胞移植がもたらす活動位相の変化が外部環境への同調性の異常によるものかを検証するため、恒常条件下(恒明条件及び恒暗条件)での飼育下における活動位相パターンの評価を行う必要性が生じた。検討の結果、85As2がん細胞移植は内在性の概日リズム周期の形成に対して直接的な作用をもたらすことが示唆されたため、今後は中枢時計であるSCNでの時計遺伝子・タンパク質の発現量について検討を行う予定であり、概ね計画通りに研究は進行していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
令和3年度は、85As2がん移植マウスにおける中枢時計・末梢時計における機能の変化についての評価を主に行う。中枢時計については、生体の中枢時計とされるSCNにおいて、85As2移植マウスおよび非移植マウスの中枢時計に関する機能評価を行う。具体的には、SCNにおける各種時計遺伝子(Per1, Per2, CRY, CLOCK, BMAL1等)の発現量を生化学的解析により検討する。また、がんと概日リズムとの関連が報告されていることから、本研究ではがん細胞由来物質が生体内時計を調節しているSCNにどのように関与しているか明らかにするために、85As2がん細胞由来物質のプロテオーム解析を行い、概日リズムに影響を与えるタンパク質の同定を試みる。末梢時計については、各臓器の細胞内に存在すると考えられており、とりわけ肝臓は生体内で最大の臓器であり、ホルモン分泌や様々な生理機能に関与するといわれていることから、本研究では末梢時計機能への評価として生体内で最大の臓器である肝臓について解析を行い、時計遺伝子の発現量や各種脂質代謝について検討する。具体的には、肝臓の組織学的解析や肝細胞の細胞機能評価を行う。また、肝細胞の各種時計遺伝子の発現量を生化学的解析により検討する。併せて、血液中の各種脂質代謝関連マーカー(総コレステロール、LDLコレステロール、中性脂肪、血糖、インスリン、AST、ALT等) の測定も検討する。
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Causes of Carryover |
令和2年度については、おおむね当初の計画通り、設備備品として必要な測定装置及び解析ソフト、消耗費として細胞培養に必要な一般試薬および実験動物購入費や飼育費に予算を使用し、わずかに残額が発生した。令和3年度は、実験動物購入費・飼育費にあわせて、遺伝子解析用試薬やタンパク質解析用試薬等に予算を使用する予定である。
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