2022 Fiscal Year Research-status Report
RSウイルスが地域内で伝播するメカニズムに関する研究
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20K18955
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Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
乙丸 礼乃 長崎大学, 熱帯医学研究所, 助教 (00849416)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | RSV |
Outline of Annual Research Achievements |
Respiratory Syncytial Virus(RSV)は、特に5歳未満児において下気道感染症を引き起こすウイルスである。本研究では、RSVの地域流行拡大に関与する要因について明らかにし、効果的な感染拡大予防策を考案することを目的としている。 長崎大学は、ベトナムニャチャンで急性呼吸器感染症(Acute Respiratory Infection,ARI)の症状を呈する0-14歳の入院症例を対象としたARIサーベイランスを実施し、登録された症例から鼻腔スワブ検体を収集している。本年度は、2020年1月から2022年4月を研究期間とし、SARS-CoV-2流行開始後のRSVの分子疫学的特徴について解析を実施した。 合計2,241例が登録され、月齢中央値は16.9ヶ月(IQR:7.8-28.7ヶ月)であった。検体が入手可能な2,225検体についてPCRでRSVを検出し、480例(21.4%)が陽性だった。RSVのサブグループ分類のためのリアルタイムPCRを設計して実施したところ、252例(52.5%)でRSV-Aのみ、108例(22.5%)でRSV-Bのみ、5例(1.0%)でRSV-AとB両方が検出された。64例(13.3%)はサブグループ未確定となり、51例(10.6%)で他の検査で検体を使いきった等の理由により検査が実施できなかった。 研究期間中、明らかなRSVの流行は二回確認され、2020シーズン(2020年6月から2021年7月)、および2022シーズン(2022年1月から2022年4月)と定義した。2020シーズン(n=387)では主要なサブグループはRSV-A であった(n=228, 58.9%)。一方、2022シーズン(n=85)はRSV-Bが主要なサブグループであった(n=60, 70.6%)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
SARS-CoV-2流行拡大予防対策により、2021年は病院の入院規模の縮小・集約化などが実施され、通常通りに検体を集めることができなかった(2020年のARI症例数: n=1169,2021年のARI症例数: n=813)。また、RSVの流行時期に合わせた前向き研究などは実施が困難な状況にある。これらのことから、計画の遅れが生じていると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
2015年から2019年までの5年間について、RSV発生の季節性に関して時系列モデルを用いた解析を実施したところ、当地でのRSV流行は6-7月頃から11月頃にかけて発生していたことがわかっている。2020シーズンの90%以上の症例が2020年6月から2021年1月までの期間に発生していた。これらのことから、これまでにわかったことは次のように要約できる。(1)SARS-CoV-2流行開始までの過去5年間、当地でのRSV流行は6-7月頃から11月頃に発生していた、(2)2020年は大規模なSARS-CoV-2感染予防対策が実施されていたが、RSVの季節性や流行の規模に大きな変化はなかった、(3)2022年は例年の流行時期と異なる1月から4月にかけてRSV流行が発生していた、(4)これまでの流行時期と異なる1月から4月の流行では主要なサブグループはRSV-Bであった。 これらのことを踏まえ、2023年度は、2022年度の後半のRSV感染症の発生について、分子疫学的解析を実施する。合わせて、過去に得られた検体のうちデータ解析が終わっていない分についてもデータを揃える。また、これまでにわかっている分子疫学的解析の結果を詳細に解析し、地域でどのように流行が拡大しているか解析を進める。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は以下の通りである。(1)SARS-CoV-2の世界的流行により調査が予定通りに進んでいない、(2)同様の理由で検体の収集・輸送に通常よりも時間を要し、検体を使用した解析が完了していない、(3)RSV感染症の季節性が変動し、新規の前向き研究計画が難しく、打ち合わせや現地でのデータ収集ができていない。一方、2022年までに収集された約2年分、480検体のRSV陽性検体を解析したことで、国内で実施するべき解析の体制を整えることができ、今後のデータ収集に役立てることが可能になったと考える。次年度はこれまでの蓄積を要約し、研究目標の達成に向けたデータ解析を継続する予定であり、次年度使用額はその費用に充てる。
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