2020 Fiscal Year Research-status Report
腐敗剖検試料におけるエタノール死後産生の評価に有用な揮発性成分の定量解析
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20K18983
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Research Institution | University of the Ryukyus |
Principal Investigator |
池松 夏紀 琉球大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (20848410)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | エタノール死後産生 / 腐敗性揮発成分 / 法医剖検例 / ガスクロマトグラフ/水素炎イオン化型検出器 / ガスクロマトグラフ質量分析装置 / GC-FID / GCMS |
Outline of Annual Research Achievements |
1.未知成分の同定:法医剖検試料のエタノール分析で測定した腐敗試料の中から、既知ピーク(エタノール、n-プロパノール、アセトン等)以外のピークを検出したものについて、ガスクロマトグラフ質量分析装置(GC-MS)で、その成分同定を行った。その結果、種々のアルコール、アルデヒド、エステルや短鎖脂肪酸を同定した。これらの化合物のうち、腐敗試料のエタノール分析で高頻度に検出されていたものは、酢酸、ブタン酸などの短鎖脂肪酸と判明した。 2.分析法・抽出法の検討:短鎖脂肪酸の標準品を用い、GC-MS にて標準液の分析を行ったところ、試料と同じ保持時間にピークが検出されなかった。そこで、標準液の短鎖脂肪酸を十分に気化させるために、バイアルに塩化ナトリウムを添加したところ、塩析効果により腐敗試料と同じ保持時間にピークが出現した。短鎖脂肪酸は、エタノール分析で使用する過塩素酸とチオ尿素を含む希釈液で、腐敗試料をホモジナイズした場合に検出され、腐敗していないサンプルにおいては検出されない。また水に比べ希釈液によるホモジナイズにおいて検出ピークが顕著であることから、腐敗試料中の短鎖脂肪酸は、希釈液と塩の添加により検出が容易になると考えられる。短鎖脂肪酸の定量には標準液の検出が不可欠で、塩を添加することで検出が可能となったが、一方で短鎖脂肪酸の気化量が増えたことで、機器内流路への残存が課題となった。 3.統計解析法の検討:琉球大学医学部保健学科基礎看護学講座生物統計学分野・米本教授に助言を頂くこととした。まず腐敗の評価を、当初「死後経過時間」で区分する予定だったが、死後経過時間では、天候等の要因によって同じ時間でも腐敗の程度が大きく異なることから、肉眼所見によって区分することとした。腐敗指標としての各成分の評価には、腐敗の程度をアウトカムとして、各成分でROC曲線を作成して評価することとした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
標的成分の選別と測定条件の探索に時間を要していることから、定量分析に移行できておらず、進捗状況はやや遅れていると判断した。 腐敗事例で検出される主要な未知成分の同定作業は進んでいるものの、希少な成分の種類が想定以上に多く、その同定作業ならびに標的成分の絞り込みにはなお時間が必要である。分析法については、標的成分候補が短鎖脂肪酸であったことから、分析条件の見直しが必要となった。検討した結果、分析機器の条件などは大きく変更せず、添加する塩の適切な量を探ることで解決できる見通しがたった。新たな分析条件の設定は大幅に時間を要するものではないので、今後の分析に大きな影響はないものと考える。 倫理審査委員会で承認された本研究の測定対象は2019年4月からの事例であり、対象となる腐敗事例の数はすでに200件を超える。次年度は、二点の課題を解決し、定量作業に進む予定であり、今後の研究遂行に問題はないものと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
1.標的成分の分析法の検討:GC-MSでの成分同定により、腐敗試料で顕著に検出されていた未知ピークは短鎖脂肪酸であると判明した。短鎖脂肪酸は一般的に分析装置内の流路への残りやすさから誘導体化などの前処理なしでは、ガスクロマトグラフを用いた定量分析が難しい成分である。従来のエタノール分析では、腐敗試料中の短鎖脂肪酸は流路へ残存していなかったこと、短鎖脂肪酸の標準液に塩を添加することでピークが検出されることから、適度な塩濃度によって、機器に残存せず、標準品も検出される条件があると考えられる。測定に適切な塩濃度を探り、その条件のもとに定量分析を進める。 2.標的成分の検討:短鎖脂肪酸のうち、特にブタン酸は外表の死後変化が顕著でない事例の胃内容物でも検出されることを確認しており、より感度の高い腐敗の指標と期待される。そのため、短鎖脂肪酸は定量分析対象とする予定である。また、引き続き腐敗事例の試料をGC-MSにかけて成分の同定を行い、標的成分を絞り込む。 3.症例の分析:標的成分と分析法が決定したのち、ガスクロマトグラフ/水素炎イオン化型検出器による定量分析を進める。
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