2020 Fiscal Year Research-status Report
スピリチュアルニーズ質問紙(独版)日本語版試案の妥当性の検証
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20K19092
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Research Institution | Kagawa University |
Principal Investigator |
上原 星奈 香川大学, 医学部, 助教 (90855206)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | スピリチュアルケア / スピリチュアルニーズ / バーンアウト |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、ドイツで開発されたSpiritual Needs Questionnaire(SpNQ)を翻訳したSpNQ日本語版試案の妥当性を検証することである。具体的には、SpNQ日本語版試案を用いて、一般病棟と緩和ケア病棟でそれぞれ勤務する看護師を対象に調査を行い、日本における看護師への適用可能性を検証することである。 令和2年度は以下の計画を実施した。 第1に、文献レビューによる不全感の残る看護や看護師のスピリチュアルニーズについての知見の整理を行った。その結果、緩和ケア病棟に勤務する看護師の多くは、長年にわたる一般病棟での看護実践能力があるにもかかわらず、患者への対応に無力感や戸惑いを抱く傾向にあった。看護師においてのそれらの感情は、看護への自信喪失に繋がり、離職の可能性を高めてしまう。(離職理由文献にて検証)これらの課題解決の有用な手法である看護師のスピリチュアルニーズについては、国内文献では明らかにすることはできなかったため、現在は海外文献を用いたレビューを進めている。 第2に、SpNQ日本語版試案の併存的妥当性や弁別的妥当性に対する尺度の検討を行った。当初の計画では、スピリチュアリティ評定尺度と日本語版主観的幸福感尺度を使用する予定であった。しかし、令和元年度に行った本研究の成果において、この2つの尺度の併存的妥当性と弁別的妥当性が低いことが明らかになった。そのため、日本のスピリチュアリティに関する尺度の概念を確認することで、スピリチュアルニーズとの関連性の検討を進めている。 第3に、スピリチュアリティの語源である英語のspiritについて意味に対する認知意味論的分析を行い、スピリチュアルニーズの概念を明確にした論文を作成した。本論文において、spiritの原義は精神であり、そこから真意、特質、超自然的存在などの意味へと派生していることを明らかにすることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の計画として、令和2年度上半期に文献レビューを終了させ、下半期に倫理審査の申請を行う予定であった。計画は遅れている。その理由を以下に3点あげる。 1点目は、文献レビューにおいて、スピリチュアリティに関する研究は欧米を中心に盛んに行われており、膨大な海外論文の読解に時間を要していることである。令和3年度においても、引き続き文献レビューを進める予定である。 2点目は、倫理審査申請書の作成が遅れていることである。倫理審査申請書には、研究方法における測定用具として、使用する全ての尺度を記載することが求められる。SpNQ日本語版試案の併存的妥当性と弁別的妥当性を検証するために用いる尺度について検討したところ、日本で開発されているスピリチュアリティに関する尺度の構成概念とスピリチュアルニーズの概念との関連性が低いことが明らかになった。したがって、倫理審査申請書に記載する測定用具が決定できず、倫理審査の申請に遅れが生じた。また、コロナウイルス感染防止を考慮し、紙を用いた質問紙調査の方法からWebでのオンライン質問紙調査への変更を検討した。しかしながら、Webでの質問紙調査の経験が乏しく、調査方法の修正に時間を要した。 3点目は、人々の生活にスピリチュアリティとして深く根付いている宗教に関する情報の収集に時間を要していることが挙げられる。この調査は当初の研究計画には含まれていなかったが、スピリチュアルニーズに対する研究において、宗教の知識は重要である。現在は、世界3大宗教として知られているキリスト教、イスラム教、そして仏教、さらに日本古来の神道について情報を集めている。これまでのところ、キリスト教の歴史的背景について概要を把握した。現在は、日本の神道と仏教の関係性につい見聞を広めているが、日本書紀の読解に時間を要している。また、今後はイスラム教の歴史的背景についても知見を広げる予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
令和3年目の研究の推進方策は以下の通りである。 第1に、文献レビューにおいて、海外論文は、検索キーワードの一部見直しを検討する。本研究の目的のために、看護師のスピリチュアルニーズの研究や、健康な人のスピリチュアルニーズの研究などに該当するようキーワード検索を行うこととする。 第2に、研究方法の一部見直しを検討する。SpNQ日本語版試案の妥当性を検証する目的のために、共分散構造分析によるモデル全体の評価を行うことが主の評価項目である。SpNQ日本語版試案の併存的妥当性と弁別的妥当性の検証は、副次評価項目となる。したがって、併存的妥当性と弁別的妥当性の検証は、スピリチュアルニーズの概念と該当尺度の概念の関係性を検討した上で、適した尺度であると判断できた場合に行うこととする。また、Web調査を行うにあたり、Web質問紙の作成技術を習得することができた。したがって、倫理審査の申請書類は令和3年度の上半期までに作成する予定である。 第3に、宗教に関する情報収集は、各宗教の歴史的背景の概要を把握するために、図書以外に論文や動画などのコンテンツを利用する。図書以外の様々なコンテンツを利用することで時間の短縮に繋がると考えられる。 第4に、倫理審査の承認が得られるまでの間に、統計ソフトのIBM SPSS Amosについて知識を深めることで、データの収集後に即分析を行うことが可能となる。また、分析結果は、スピリチュアルケアの専門家である上司のスーパーバーズを受け妥当性を検証していく予定である。
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Causes of Carryover |
物品費については、統計ソフトのSPSS Amosを前年度に購入する予定であった。SPSS Amosを取り込むためのPCは他の研究費から購入する予定であったが、当初の予定よりPCの購入が遅れてしまった。令和2年度末にPCの購入が完了したため、SPSS Amosの購入は令和3年度に行う予定である。 旅費については、参加予定であった令和2年度の学術大会がコロナウイルスの影響により中止となったため、旅費の発生はなかった。令和3年度も引き続きオンラインでの学術大会となる可能性が高いため、交通費等が発生する見込みはないが、参加費や研修費として使用する予定である。 人件費・謝金は、当初は質問紙調査における謝礼として使用を計画していた。しかし、研究の遅れにより質問紙調査の実施が行えていない。計画を修正し令和3年度に質問紙調査を実施することとし、調査までに謝礼の購入を行う予定である。 その他は、図書や文献複写の費用として計画していた。しかし、国内論文は無料の文献が多いことから、文献複写費用は少なかった。しかし、海外論文は有料の文献や取り寄せに費用がかかることが予想される。海外論文の文献レビューは引き続き行うため、令和3年度においても文献複写費用が必要となる予定である。また、宗教に関する情報収集に時間を要してしまい、スピリチュアルに関する図書から情報収集が遅れている。図書の購入も令和3年度に行う予定である。
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