2021 Fiscal Year Research-status Report
地域で生活する統合失調症者のSOC向上プログラム開発のための基礎的研究
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20K19274
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Research Institution | Kagawa University |
Principal Investigator |
蔵本 綾 香川大学, 医学部, 助教 (20849640)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | Sense of Coherence / 統合失調症 / 地域生活 / 人生経験 / パーソナルリカバリー / セルフスティグマ |
Outline of Annual Research Achievements |
統合失調症者のSense of Coherence(SOC)向上プログラム開発に向けては、SOCの形成・発達のみならず、SOCの機能・効果についても検討が必要である。そこで、統合失調症者の地域生活支援に関連する文献検討を行った。 統合失調症者の地域生活支援を考える上で重要な概念の一つにパーソナルリカバリーがある。このパーソナルリカバリーには主体性の回復が含まれ、人によって異なる過程をたどるものである。パーソナルリカバリーに関する先行研究はこれまでにも多数行われており、尺度も複数開発されている。リカバリープロセスには「人や地域とのつながり」「将来への希望と楽観」「自分らしさ」「人生の意味」「エンパワーメント」の5テーマが挙げられている。SOCの下位概念である、把握可能感・処理可能感・有意味感と近接する内容が含まれており、SOCとパーソナルリカバリーには正の関連があることも報告されていた。 また、先述の5テーマのうち「自分らしさ」には、偏見を乗り越えること、自己理解・自己受容・自己実現・自己効力感・主観的ウェルビーイング、セルフスティグマの克服などが含まれる。セルフスティグマはパーソナルリカバリーを阻害する要因として報告されているが、地域での生活は社会とのつながりの中で行われるため、統合失調症をもつ自分と向き合わなければならない場面も生じることが考えられる。精神障害者におけるセルフスティグマの低減にはSOCが関与することが報告されている。セルフスティグマがパーソナルリカバリーを阻害する要因であるのに対し、SOCがその緩衝要因となりうることが推測された。 対象を統合失調症者に限定した研究は限られており、広く「精神障害者」として対象とされることが多い。しかし、疾患名に伴うイメージやそこから生じる生活のしづらさは異なると推測されるため、疾患・障害ごとに検討していくことが重要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
地域で生活する、病識を有する20歳以上の統合失調症者15名程度にインタビューを行う予定としており、6名のインタビューを終えたが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行が継続しており、研究協力施設への立ち入り制限も続いている。統合失調症当事者を対象とした研究であり、IT機器の活用が難しい場合が多く、遠隔会議システムを用いたインタビューの実施は困難であることが推測される。 また、COVID-19前後で生活様式が変化したこともあり、当事者の人生経験にも影響を及ぼした可能性があるため、インタビューの終了した6名に関しても、データの再収集が必要と考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
COVID-19の流行状況を鑑みつつ、研究協力施設に調査再開の打診を行う予定である。研究対象候補者として、現在データ収集済である6名とは別に、10名程度をリストアップしていただいていただが、依頼当初とは状況が変わっているため、再度確認を行う。必要時はインタビュー前に各研究協力施設で活動等を一緒にさせていただき、当事者との関係形成を図ってからインタビューを実施する。 その際には、COVID-19による生活の変化は統合失調症者の人生経験にも少なからず影響を及ぼしたことが推測されるため、インタビュー項目に関しても変更・追加が必要と考えられる。インタビュー項目の変更・追加やデータ再収集等、調査内容を変更する場合は、再度、所属機関の倫理委員会に諮り、承認を得てから実施する。いずれの場合でもインタビューの実施時には、プライバシーの保たれる環境は確保しつつ、感染対策には十分に配慮した上で行う。 また、インタビュー実施が困難な状況が継続することも考慮し、統合失調症者のもつ力であるSOCに着目した質問紙調査の実施も検討中である。地域で生活する統合失調症当事者を対象としたSOCに関する研究は少なく、その実態は未解明である。統合失調症者のSOCの形成・発達に関する研究のみならず、SOCの機能・効果を示すことも向上プログラム開発の一助となりうるものである。
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Causes of Carryover |
研究対象者6名へのインタビューを実施した後から、COVID-19流行拡大に伴い、データ収集が困難な状況となり、インタビュー反訳費等の支出がなくなった。また、関連学会への参加に関しても、Webもしくはハイブリッド開催が主となり、移動費・宿泊費として計上していた予算が不要になったため、次年度使用額が生じた。 感染状況を見ながらインタビューを再開する予定であり、その際には移動費および反訳費として使用予定である。 また、インタビューが再開できない可能性を考慮し、郵送による質問紙調査を計画中である。その際には、印刷費・郵送費・統計ソフト購入等にて使用を予定している。
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