2021 Fiscal Year Research-status Report
傷つきやすいアスリートのための効果的な心理サポートの解明とその応用
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20K19517
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Research Institution | Juntendo University |
Principal Investigator |
山口 慎史 順天堂大学, 大学院スポーツ健康科学研究科, 特任助教 (60847630)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 傷つきやすさ / 尺度開発 / メンタルヘルス / 抑うつ症状 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度は「競技活動の実施によるヴァルネラビリティの変化の証明」をテーマに研究を実施した。昨年までの研究では大学生アスリートのみを対象に研究を進めてきたが、運動・スポーツの恩恵を受けてメンタルヘルスが良好になっているのか、厳しい競技環境故に傷つきにくいのかが定かではなかった。 そこで2021年度では一般大学生を含めて調査を実施した。その際、アスリート用の傷つきやすさを測定する指標しかなかったため、まずは日常生活で感じる傷つきやすさに関する指標を開発した。具体的には、批判や否定に関する内容(例:自分の考えを否定されると傷つく、自分の意見を批判されると傷つく)、対人不和に関する内容(例:信頼していた人が話しかけてこなくなると傷つく、自分に対して悪口を言われると傷つく)、自己逃避に関する内容(例:嫌なことがあると逃げてしまう自分に弱いと感じて傷つく、自分にとって嫌なことを後回しにして後悔する)などが傷つく出来事として得られた。また本尺度の信頼性と妥当性は担保されており、今後、本研究課題の研究内容が大幅に進展することが期待される。 加えて、日常生活場面の傷つきやすさを用いた研究では、日常場面の傷つきやすさは抑うつ症状と正の相関関係があり、日常場面において傷つきやすい者ほど抑うつ症状が高まることが示唆された。さらに、競技場面の傷つきやすさと同様に、男女差においては、女性の方が男性よりも傷つきやすく、ヴァルネラビリティの概念を適切に測定していることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2021年度では、日常場面の傷つきやすさを測定する指標の開発に加えて、「競技活動の実施によるヴァルネラビリティの変化の証明」といった研究テーマから、「競技を行う者ほど傷つきにくいのか」「運動・スポーツの恩恵がメンタルヘルスを良好にするのか」などの問いについて検討するため、一般大学生と大学生アスリートの比較を行う予定であった。しかしながら現在の進捗として、尺度開発の分析終了後、尺度を一般化するために論文の執筆を優先したため、他の調査が実施できなかった。そのため、一般大学生と大学生アスリートの比較研究については、2022年度に繰り越して行うこととする。また、尺度開発の論文や、抑うつ症状との関連などの研究成果は、順次、2022年に学会発表やインパクトファクター付きの国際誌に精力的に発表・投稿していく。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度の研究方策としては、昨年に引き続き「競技活動の実施によるヴァルネラビリティの変化の証明」をテーマに研究を進めていく。進捗状況でも述べたように、2021年度は尺度の開発に関する論文執筆に時間を要してしまったため、一般大学生と大学生アスリートの比較研究や細かな分析、その他の概念との関連性・影響の検討まで実施することが出来なかった。 そこで2022年度は、①一般大学生と大学生アスリートの比較研究として、ヴァルネラビリティ、ハーディネス、グリットの関連性について競技経験の有無を基準に検討していく。これらの心理的概念が競技をしている大学生アスリートの方が一般大学生よりも高い(ヴァルネラビリティのみ低い)のか、運動・スポーツの実施がこれらの概念を変動させる一因なのかを明らかにしていく。 ②ヴァルネラビリティと抑うつ症状の関連性の深化として、傷つきやすくなると抑うつ症状が高まり、その結果どうなるのか、といった問いを明らかにするため、メンタルヘルスの観点から希死念慮を用いてその関連性について検討していく。今日までに傷つきやすさと抑うつ症状および希死念慮の関連は検討されてきていない。傷つきすぎると、抑うつ症状が高まりすぎるとどうなってしまうのか、傷つきやすい者ほど希死念慮のリスクはどの程度高いのかを明らかにしていく。昨年に引き続き、得られた研究成果は国際学会や国内の学会で発表し、インパクトファクター付きの国際誌に順次、投稿していく。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由として、2021年度は2020年度に引き続き、コロナウイルス感染症の影響により国際学会や国内の学術大会が全てオンライン開催となった。そのため、旅費や宿泊費、大会参加費などの支出がほとんど発生しなかった。また、アンケート調査にかかる費用についても、2021年度もオンライン授業であったことから、紙媒体で調査を行うことが出来ず、web調査へと切り替えた。その結果、アンケート用紙、ボールペンなどの消耗品に関する費用、データ入力やデータの整理に関する費用を抑えることに繋がった。これらのことから、本来想定していた使用額よりも少ない額になってしまった。 次年度の使用計画としては、昨年度までの研究成果を論文としてまとめ、英文校正費や雑誌掲載費等に充てていく。また、国内の学術大会が現地で開催される方向のため、旅費や宿泊費等が発生してくることが考えられる。研究を進めていく上で必要な参考図書、消耗品なども購入していく予定である。
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