2021 Fiscal Year Research-status Report
経頭蓋脳刺激と超高磁場MRIで解き明かす運動記憶の神経基盤
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20K19629
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
濱野 友希 早稲田大学, 理工学術院総合研究所(理工学研究所), 客員次席研究員 (00823254)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 記憶痕跡 / 運動記憶 / 運動学習 / 経頭蓋磁気刺激 |
Outline of Annual Research Achievements |
本申請課題では、系列運動学習により形成される系列運動の記憶痕跡が脳内のどこに局在しているかを立証することを目的としている。これまで非利き手を用いた系列運動に関する記憶痕跡は左頭頂間溝と両側運動前野に形成され、実行時に対側の一次運動野(M1)で統合されることを明らかにした(Hamano et al., 2020, 2021)。当初の計画では、左頭頂間溝に偏在する記憶痕跡の因果的役割を明らかにする経頭蓋刺激実験を行なった後、両手運動学習の記憶痕跡を明らかにする機能的MRI実験へと進む計画だった。しかし、2020年より続く感染症の影響により、経頭蓋刺激実験の実施施設での実験が今年度も困難であった。そこで、両手運動学習の機能的MRI(fMRI)実験を優先的に実施するよう変更し実験を完了した。 両手運動学習のfMRI実験では、同じ指で打鍵するミラー条件と、空間的には同じ位置だが異なる指で打鍵するパラレル条件とランダム打鍵を繰り返し行う課題を用いた。35名が実験に参加し、7テスラMRI装置内で両手を用いた系列運動技能を学習時のfMRI計測を行った。現在までの解析結果として、予測可能な系列動作をパラレル条件で行う場合にのみ練習を繰り返すにつれて左M1の課題関連活動が増大した。左右で異なる指を同時に動かすパラレル条件では、両手を独立して制御する両手特有の技能学習が生じている。左M1で示された活動増大は、両手運動技能に特有の記憶痕跡が左M1に形成されることを示唆している。さらに、左M1と前部帯状回の機能的結合は、ミラー条件に比べてパラレル条件でより強かった。M1から前部帯状回へ送られる情報は、記憶痕跡という内部モデルの生成に必要な誤差信号源として機能していると考える。これらの結果は両手技能に特有の記憶痕跡が片手技能と共通する要素を持ちながら、異なる神経経路を介して形成されることを示唆している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
2020年より流行している感染症の影響により、申請書に記載した年次計画に沿って実験を進めることができなかった。本年度は、申請者がこれまで扱っていた超高磁場MRI装置を用いて、両手での系列運動学習の記憶痕跡を同定する研究を先に進め、論文執筆へと計画を修正した。また、学習過程の実行様式に応じて異なる脳領域に形成される系列運動技能に関する記憶痕跡を、実行に際してどのように統合し出力するのかについて検証する実験を、7テスラMRI装置を用いて完了し、国際誌へ採択された(Hamano et al., 2021)。当初、申請者が予定していた経頭蓋刺激を扱う実験は、経頭蓋刺激の経験が豊富である、協力研究者の東京都医学総合研究所の菅原翔主任研究員と実験へ向けた課題を含めた準備を引き続き進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
左半球aIPSに保持された記憶痕跡の運動実行時の役割を経頭蓋刺激を用いて検討する実験は、引き続き東京都医学総合研究所にて実施する。より局所的な刺激が可能な磁気刺激装置を用いる計画へと変更し、反復経頭蓋磁気刺激を用いた倫理申請の承認も得ている。感染症の流行が続いているため、外部から参加者を募って行う研究が困難な状況が今後、改善されるのか状況が読めない。しかし、状況が好転した後、速やかに本実験を進められるよう、予備実験等を進めていく方針である。 昨年度実施した7テスラMRI装置を用いた両手での系列運動学習に関する研究について、順調に解析が進んでいる。得られた成果については、次年度国際学会で発表し、国際誌へ投稿する予定である。
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Causes of Carryover |
2020年から世界的に流行している感染症により、研究活動や実験などに厳しい制限がかかり、当初に予定していた研究計画通りに円滑に進めることができなかった。そのため、当初の使用額に差が生じている。去年から始まったワクチンなどの普及もあり、環境や感染状況の改善が見込めることから、研究活動の再開を目指す。 まず、当初の予定であった経頭蓋刺激を用いた実験を行うための打ち合わせは、すでに終えているため、円滑に実験準備および遂行できる。去年度より繰り越された基金は、当初の予定通り被験者謝金や自身の出張費として使用する予定である。また、感染症禍で行われた実験の成果発表を行うため、国際学会へ出張費用としても使用する予定である。 しかし、今後、この感染症がどのように影響するか予想がつかないのが実際の現状である。感染症の拡大がまた生じることがあれば、研究期間の延長も視野に入れて研究を進めることを考える必要がある。
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Research Products
(3 results)