2020 Fiscal Year Research-status Report
骨格筋および神経機能低下はケトン食で改善可能か? -サルコペニア予防を目指して-
Project/Area Number |
20K19652
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Research Institution | Nippon Sport Science University |
Principal Investigator |
鴻崎 香里奈 日本体育大学, 保健医療学部, 助教 (30739769)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ケトン食 / サルコペニア / 神経筋接合部 / 筋萎縮 / 骨格筋 |
Outline of Annual Research Achievements |
加齢性筋機能低下症として知られるサルコペニアでは、骨格筋症状だけでなく、筋の収縮運動を制御する支配神経の変性も認められる。したがって、サルコペニアの予防・改善には、筋のみならず支配神経の機能維持・改善が重要であると言える。本研究では、「ケトン食」による栄養介入が、筋および神経機能を維持・改善させるための有効な介入手段となりうるかを検証することを目的とした。 ケトン食は低糖質・高脂質食からなり、中枢神経系疾患への適応を中心として、抗癌作用などの効果を持つことから近年注目を浴びているが、サルコペニアへの作用メカニズムは未解明である。そこで、細胞培養および加齢動物モデルを用いてケトン体の作用機序を明らかとし、サルコペニアにもたらす効果を検討する。ケトン食は日常の食生活に取り入れることも可能であり、誰しもが自主的にサルコペニアを予防できる革新的な栄養介入法となりうる。 2020年度は、培養骨格筋細胞(C2C12)を用いた実験において、ケトン体(4mMのβヒドロキシ酪酸、1.4mMのアセト酢酸)を添加すると、神経筋接合部様の構造が、ケトン体を添加しなかった場合よりも多数確認できたことを踏まえ、次の段階として、生体(マウス)を用いた実験へ移行した。 8週齢の雄性C57BL/6Jマウスを、カロリー摂取量をケトン食と同等にした通常食群(ND n=7)、体重推移をケトン食と同等に合わせた群(NDW n=7)、ケトン食(KD n=7)の3群に分類し、比較検討した。介入期間は事前の実験によって、血中における糖代謝能に変化が認められた6週間とし、また2週間おきに血糖値変化をモニターした。6週間後、 体重および脂肪組織重量は、KD群でND群よりも有意な低値を示した。一方で、腓腹筋湿重量はND群とKD群間で有意な差は認められなかった。次なる段階では、各組織サンプルの解析を試みる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請時における2020年度の研究計画では、主に培養骨格筋細胞(C2C12)を用いてケトン体を添加し、神経筋接合部構造の解析などを実施することとしていた。実際には、これに加え、加齢モデルマウスを用いた実験へ移行する前段階として、若齢マウスを対象としたケトン食の介入効果を検討する実験を開始した。その結果、上述したように組織重量は通常食群とケトン食群間で差が認められた。2021年度は、摘出サンプルの生化学・病理学的解析を実施し、申請書に記載した神経の新生・形成関連マーカーや骨格筋ミトコンドリア、ヒストンの脱アセチル化についての評価を実施する。さらに2021年度後半では、疑似加齢マウスや、解析の進捗状況によっては前倒しで自然加齢マウスを用いて、ケトン食による効果の検討を予定している。すでに若齢マウスを対象とした介入実験によって得られたサンプルは、ウエスタンブロット法による解析のためのサンプル作製、PCRによる関連遺伝子発現解析のための遺伝子抽出を終了している。今後は、作製したサンプルを用いて各種解析を実施し、データ収集に努めたい。 これらの結果を振り返ると、新型コロナウイルスの感染拡大による研究活動への影響は多少なりともあるものの、おおむね計画通りに研究活動が遂行できていると考える。新型コロナウイルスの感染状況によっては、今後の研究活動へ支障が来される可能性が考えられるが、実験を進めながら状況を見極め、仮に実験活動が制限されることになったとした場合は、データの解釈や論文執筆活動に尽力したい。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度は、疑似加齢マウスを対象とし、通常食群とケトン食群に分類して筋内PGC-1α、ミトコンドリア関連タンパク(COXⅣ, OXPHOS, VDAC, ミトコンドリアダイナミクス)、および神経・神経筋接合部へのケトン食の効果を検証する。疑似加齢マウスについては既存のモデル(D-ガラクトースなどの薬剤誘発性,あるいは加齢促進モデルマウスsamp8など)から選定する。食餌は既報に従いケトン食(糖質0%, タンパク質10%, 脂質90%)、通常食(糖質77%, タンパク質10%, 脂質11%)の割合で作成された食餌を使用する(Newman, et al. 2017, Cell Metab, リサーチダイエット社より既に購入済み)。細胞を用いた実験と同様にミトコンドリア生合成や機能(呼吸機能,酵素活性)、共焦点レーザー顕微鏡を用いた神経筋接合部の構造変化、ウエスタンブロット法による神経成長・栄養因子(MuSK, Dok7, Agrin, LRP4, synaptophisin)などを中心に生化学・病理学的な解析手法を用いる。また、RNAシーケンスを用い、骨格筋内でのミトコンドリア、神経成長・栄養関連遺伝子発現の包括的な解析も実施する予定である。また、ケトン食を摂取することによって、ケトン食がHDAC阻害剤としての筋へ作用するメカニズムを解析する。上述した内容のサンプルを用いて、HDACの抑制により影響を受けるシグナル経路(mTOR, SIRT1など)を中心にウエスタンブロット法によるタンパク質発現量解析、RNAシーケンスによる遺伝子発現解析などをを用い、ケトン食がHDAC阻害作用をもたらすのか、もたらすのであればどのような作用機序なのかを解析する。
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