2021 Fiscal Year Research-status Report
骨格筋および神経機能低下はケトン食で改善可能か? -サルコペニア予防を目指して-
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20K19652
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Research Institution | Nippon Sport Science University |
Principal Investigator |
鴻崎 香里奈 日本体育大学, 保健医療学部, 助教 (30739769)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ケトン食 / サルコペニア / 神経筋接合部 / 骨格筋 |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題の目的は、一定期間のケトン食介入がサルコペニアによる骨格筋症状の進行予防や改善効果をもたらすかを検証することである。ケトン食とは、低糖質・高脂質食の総称であり、それらを一定期間摂取することによって、生体内におけるケトン体(ベータヒドロキシ酪酸、アセト酢酸、アセトン)の産生を増加させ、ケトン体由来のエネルギー産生を促進させる食事方法である。本研究期間中に、若齢の雄性C57BL/6Jマウスへ対して異なる期間のケトン食介入を実施した。その結果、ケトン食を開始してから4-6週経過した時点で最も血糖値が低値を示し、インスリン感受性も高い傾向を観察した。このことから、ケトン食の介入期間を6週間に設定し、骨格筋やその他組織、代謝変化へもたらす影響を評価することを次なる検討課題とした。6週間の介入後、解剖を実施して骨格筋および脂肪組織を採取して湿重量を計測した結果、通常食を摂取したマウスと比較して、脂肪重量が減少していた一方で、骨格筋湿重量は腓腹筋、足底筋、ヒラメ筋ともに変化が認められなかった。この結果を踏まえ、骨格筋タンパク質合成・分解シグナルをqPCR法、ウエスタンブロット法を用いて解析することが今年度の予定であった。また神経や神経筋接合部に関連する遺伝子をqPCR法を用いて解析を実施した。合わせて神経筋接合部の構造を解析するために、別途6週間の食事介入を実施し、灌流固定後骨格筋(腓腹筋、足底筋、ヒラメ筋)を摘出し、病理解析用サンプルを作製し顕微鏡解析を実施する段階である。ここまでに得られたデータは、今年度開催される各種学会大会で発表や学術雑誌への成果の発信を目指す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021度は主にマウス若齢個体から摘出した骨格筋組織(腓腹筋、足底筋、ヒラメ筋)の生化学・病理学的解析を実施した。骨格筋の神経筋接合部付近に高発現するDOK7, MUSK, CHRNA1, AGRN, LRP4遺伝子をqPCRによって分析したところ、ケトン食群(KD群)の CHRN1は通常食群(ND群)より有意に高値であった。この結果を踏まえ、タンパク質レベルでの発現量評価や、神経筋接合部構造変化を評価するために現在も分析を進行中である。また、骨格筋湿重量の筋湿重量はND群およびKD群で差が認められなかったが、筋線維タイプや筋線維横断面積に食事介入の差が認められるかを検証することとした。ミオシン重鎖関連遺伝子であるMyh1, Myh2, Myh4, Myh7をqPCRによって分析したが、KD群でMyh7(slow type)が増加傾向であるものの、有意差は認められなかった。 次にウエスタンブロット法にてMHC(fast)およびMHC(slow)のタンパク質発現量の定量評価をおこなったが、MHC(slow)がKD群で増加傾向であったが有意な差は認められなかった。また骨格筋のタンパク質合成や分解に関連するタンパクおよび遺伝子発現を現在分析している最中である。タンパク質分解シグナルであるユビキチン化タンパクに、両群間で有意な差は認められなかった。qPCR法でMuRF1やAtrogin-1の遺伝子発現量を解析した結果、Atrogin-1に有意な差は認められなかったが、MuRF1はKD群で有意な高値を示した。現在はタンパク質合成シグナルであるmTORC1シグナルや、分解に関与するオートファジーの分析を実施している。あわせて、筋横断面積評価として腓腹筋をラミニンで蛍光染色し、顕微鏡下で撮像をおこなったのち横断面積に算出着手した。
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Strategy for Future Research Activity |
若齢マウスに6週間のケトン食介入を実施後採取した組織サンプルも、前年度に引き続き分析する。ケトン食を一定期間継続的に摂取した若齢マウスでは、対照群と比較して筋湿重量に差は認められなかったが、実際に筋線維面積において対照群と差が認められるか否かは、分析をおこなっている最中である。また、筋線維断面積の評価と合わせて、骨格筋内脂肪の蓄積を評価するために、オイルレッドO染色を実施する予定である。 加齢マウスを対象として通常食群とケトン食群に分類し、6週間の継続的なケトン食介入が、加齢性筋萎縮の進行を遅延または改善させるか検討する。分析対象組織が骨格筋以外ではあるものの、これまで報告された加齢マウスへケトン食介入を実施した先行研究では、ケトン食を摂取させる期間が長期(最低でも8週間以上)であった。しかし一昨年、昨年度の報告書で述べたように、ケトン食を12週間摂取し続けたマウスではインスリン負荷後の血糖低下が鈍化していたことや、脂肪組織重量の減少率は6週間介入したマウスと12週間介入したマウスでは同程度だったことから、比較的短期間のケトン食摂取によって骨格筋萎縮や代謝変化が認められる可能性が高い。そこで本研究では、6週間という短期間で設定し介入検討を実施する。6週間経過後、足関節トルク測定およびグリップストレングスによる筋力評価を実施した後に解剖し、筋や脂肪組織、臓器を摘出する。まず筋の分析を優先し、ミトコンドリアや、経筋接合部に関連する遺伝子やタンパクをqPCRやウエスタンブロットで解析する。神経筋接合部の構造観察には共焦点レーサー顕微鏡を用い、神経筋接合部関連タンパクの免疫組織化学染色も実施する。また、RNAシーケンスを用い、骨格筋内における遺伝子の網羅的解析も実施する予定である。さらに若齢マウスで筋線維の遅筋化が認められたことを踏まえ、加齢マウスの骨格筋線維タイプの解析も実施する。
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Causes of Carryover |
実験で用いるケトン食は、使用期限が1年程度であり、ケトン食自体も受注生産のため1回購入あたりのコストが非常に高い(30万円程度)。2022年度は新たに若齢マウスへの介入や、自然加齢マウスへの介入も実施する予定であるため、最終年度である本年度にもケトン食を購入する必要が生じたため、前年度から繰越をした。
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