2020 Fiscal Year Research-status Report
拡散結合系のカオスのレザバーコンピューターへの応用と小脳顆粒細胞層の計算論の構築
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20K19882
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
徳田 慶太 筑波大学, システム情報系, 助教 (50762176)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | カオス / ギャップジャンクション / レザバーコンピューティング / 小脳 |
Outline of Annual Research Achievements |
小脳は教師あり学習により時空間パターンを入出力として持つ写像を高い精度で獲得できるシステムだと考えられている。時空間パターンの入力経路である小脳顆粒細胞層は、入力に対して特異的かつ時間的に変化する応答をすることでこの機能に寄与していると考えられる。一方、顆粒細胞層ではギャップジャンクション(GJ)により近傍の抑制性細胞同士が密に結合し、発火パターンにも強い影響を与えていることが実験的に知られているが、それがどのように入力パターンの表現に寄与しているかは明らかになっていない。本研究では、 GJが神経ダイナミクスに時空カオスを引き起こし、それが顆粒細胞層における効率的な入力の情報表現を可能にしているという、計算論的な仮説を検証することとした。そのために、小脳をレザバーコンピューターとして捉え、レザバーを構成する顆粒細胞層にGJを導入することがモデルの精度に寄与するかどうかを検討している。顆粒細胞層のGJと情報処理との関係を明らかにすることで神経科学に貢献すると共に、拡散結合系のカオスをレザバーに用いることの有用性を検討し、ソフトコンピューティングの知見に貢献することを目的としている。 本年度は、顆粒細胞層の微分方程式モデルを構築し、系の挙動に対するGJの有無などの影響を検討した。その結果、GJの存在によって系にカオスが引き起こされ、系のダイナミクスが幅の広い周波数帯の活動を持つようになることや、出力できるパターンの複雑性が上がること、系への入力からの時間に特異的な状態を取るようになることがわかった。実際、系のダイナミクスのカオス性を特徴づけるリアプノフ次元の高さと、出力と教師パターンの二乗平均平方根誤差は逆の相関を示した。これらの結果を論文としてまとめ、Neural Networks誌で発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
GJを導入した顆粒細胞層のモデルをレザバー計算の枠組みで構築すること、および、GJがもたらすカオスのモデルパフォーマンスへの評価、パラメータ依存性など、本研究計画の重要な目的を果たすことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに、カオス的ダイナミクスをレザバーに誘導することで、系の出力の複雑性が上がり、入力からの時刻特異的な信号を出力できることが明らかになった。今後は、このようなモデル性能の向上がどのようなメカニズムで起こるのか、その情報論的な側面をより深く探究することが重要であると考える。 また、これまでの研究により、カオス的なダイナミクスは系の出力の複雑さを上げることができる一方で、系の汎化性能を下げてしまうことがわかってきた。本研究を進める中で、モデルの複雑さと汎化能力のトレードオフを系のカオス性から考えるという新たな問題意識が生まれてきたので、今後の検討課題とする。
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Causes of Carryover |
物品購入として計算機を予定していたが、研究室の計算機リソースを活用することが可能になったため、これまでの研究は計算機購入費用を減らして進めることができている。今後、モデルの精緻化などに伴って計算機リソースがさらに必要になった場合に、購入を検討することとする。
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