2020 Fiscal Year Research-status Report
先端的XAFS法と同位体分析を用いたエアロゾル中の有害元素の起源および動態の解明
Project/Area Number |
20K19953
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
孫 静 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 特任研究員 (40868428)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 同位体分析 / エアロゾル / XAFS / TES / 有害金属元素 |
Outline of Annual Research Achievements |
亜鉛(Zn)は、沸点が低く加熱時に気化しやすいため、エアロゾル中に最も多く存在する遷移金属である一方、過剰摂取による有害性や海洋プランクトンの制限因子であることなどから、大気中の亜鉛の挙動は重要な研究対象である。亜鉛の発生源としては、精錬所や自動車などからの排ガスや摩耗したタイヤ起源の粒子などがあり、これらは異なる化学種をとる可能性が高い。このようなことから、Zn化学種とZn同位体比は、大気中の亜鉛の起源、輸送途中で受ける化学プロセス、沈着後の挙動などに重要な情報を含むと期待される。そこで本研究では、粒径別に採取されたエアロゾルについて、X線吸収微細構造(XAFS)による化学種解析とZn同位体比測定により、大気中の亜鉛の起源と挙動を詳細に考察する。このうち今年度は主に化学種に基づく検討を進めた。エアロゾル試料は、つくば市(季節別)及び広島県呉市の休山トンネル内でアンダーセンタイプエアサンプラーを用いて粒径別に採取した。KEK-Photon Factory及びSPring-8でZn K吸収端XAFS測定を行い、化学種の同定を行った。つくばで採取された試料について、2.5 μm以下の粒径では、シュウ酸亜鉛と硫酸亜鉛が主要な化学種であった。硫酸亜鉛は特に1 μm付近に多く、液滴内での反応(droplet mode)により、大気中で二次的に生成したと考えられる。シュウ酸亜鉛は、より粒径が小さな領域に多く、droplet modeや粒子表面での反応により生成されたと考えられる。一方2.5 μm以上の粒径では、塩化亜鉛と硫化亜鉛が主要な亜鉛化学種であった。塩化亜鉛について、製錬所等での燃焼過程で気化・生成されること、これが凝集して2-3 μm程度の粒子を形成することが分かっている。また硫化亜鉛はタイヤの摩耗に由来し、気化を経ないため、粒径の大きな領域に多かった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究は順調に進んでおり、今年度可能な限り論文発表を進める。
|
Strategy for Future Research Activity |
亜鉛(Zn)は、沸点が低く加熱時に気化しやすいため、エアロゾル中に最も多く存在する遷移金属である。気化して環境中に放出された亜鉛は、軽い同位体の濃集を示し、最終的に粒径の小さなエアロゾルを形成し、大気中を輸送されると考えられる。エアロゾル試料は、酸分解後、ICP-AES・ICP-MSを用いて大気中Zn濃度を求めた。また酸分解後、陰イオン交換樹脂を用いたカラム分離により精製したZn溶液をマルチコレクター型ICP-MS (Neptune;海洋研究開発機構高知コア研究所)で分析することにより、Znの同位体比を測定する。これまでの予備検討では、エアロゾル中の亜鉛の安定同位体比は、2.5 μm付近で著しく軽い方に分別しており、これは黄砂の影響がある春の試料以外で共通して見られた。またトンネル内で採取された試料では、このような顕著な分別は見られず、0.45 μm以下の粒径でわずかに分別していた。XAFSで得た各Zn化学種の同位体比をパラメータとして、Z同位体比の粒径依存性をフィッティングした。その結果、いずれの季節でも同位体比の粒径依存性を説明することができ、各亜鉛化学種の同位体比を推定できると期待される。特に、各季節別に得た各化学種の同位体比を得ることで、エアロゾル中の亜鉛の生成プロセスを明らかにできると期待される。これまでの検討から、シュウ酸亜鉛は、自動車排ガスから放出され、それらのほとんどが微小粒子として放出された直後に粒子化するため、分別の程度が小さいと考えられる。これはトンネル内で採取した試料の亜鉛同位体比からも支持される。塩化亜鉛は、精錬所等での気化を経ているため、軽い方に大きくシフトしている。硫酸亜鉛は、微小な塩化亜鉛が液滴に溶け込み二次的に生成したと考えられる。タイヤ起源の硫化亜鉛は気化を経ていないため、同位体分別の程度が小さいと考えられる。これらの検討を今後進める。
|
Research Products
(4 results)