2020 Fiscal Year Research-status Report
福島原発事故により放出された放射性微粒子の環境動態解明に向けた溶解特性評価
Project/Area Number |
20K19954
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
奥村 大河 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (90867508)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | セシウムボール / 珪酸塩ガラス / 合成 / 溶解速度 / 福島原発事故 |
Outline of Annual Research Achievements |
2011年3月に発生した福島原発事故において、放射性セシウムを含む数ミクロン以下の微粒子(CsMP)が破損した原子炉から環境中に放出された。珪酸塩ガラスを主成分とするCsMPのような微粒子の発生は過去の原発事故では報告例がなく、その環境動態は不明であった。これまでCsMP自身を用いてその溶解特性が調べられてきたが、土壌等の環境試料から微小なCsMPを採取する作業は煩雑であり、CsMPを多量に集めることは困難である。そのため、これまで溶解実験に供されたCsMPの数は限られており、得られた溶解速度には大きな誤差が含まれるという問題があった。そこで本研究では、CsMP模擬ガラスを合成し、それを用いた溶解実験によりCsMPの溶解特性の詳細を解明することを目的とした。これにより、様々な条件下でのCsMPの溶解特性が精度良く決定でき、環境中でのCsMPの動態をより高い確度で予測することが可能となる。 本年度はCsMPの組成を模擬したガラスの合成を実施した。CsMPと同様な組成を持つよう出発物質を調合してペレット状に成形し、リング状のレニウム製ワイヤー上に載せてガスバーナーで炙って固着させた。これを水素と二酸化炭素の混合ガスによって還元雰囲気にした電気炉にて1400℃で溶融した後、空冷することでガラスを得た。得られたガラスを分析した結果、全体が非晶質で構成されており、組成は概ね目標組成に近いガラスであることが確認できた。またガラス中のFeはほぼ2価で構成されており、CsMPを模擬するに足るガラスの合成が実現した。 次年度に向けて合成ガラスの溶解実験にも着手しており、海水での溶解速度が純水に比べて速いことを確認している。こうした溶解実験を進めることで、CsMPの溶解特性を詳細に明らかにできる見通しが得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度はCsMPと同様な組成を持つ均一なガラスを合成することを目標とし、計画通りCsMPを模擬するに足るガラスを合成することに成功した。また次年度に実施予定の合成ガラスの溶解実験にも着手しており、順調に研究が進んでいると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
合成したCsMP模擬ガラスを用いて純水および海水での溶解実験を行う予定である。当初は模擬ガラスを粉砕して表面積をBET法で測定した後、一定時間毎に溶液中に溶け出した元素濃度を分析することで溶解速度を調べる計画であった。しかし、この方法では溶液とガラスの界面で生じる現象を追跡することが難しく、詳細な溶解挙動の理解が困難である。そこで模擬ガラスの研磨断面を作製して溶液中に浸漬し、その形状や表面構造の変化を調べることで溶解速度と構造変化の両者を同時に調べる方法を採用する。これまでの研究で求められた純水および海水でのCsMPの溶解速度と比較し、その妥当性を検討する。またガラス表面の構造変化を調べることで、溶解がどのようなメカニズムで進行するのかを解明する。
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