2020 Fiscal Year Research-status Report
細胞競合と複製エラーを考慮した低線量・低線量率放射線生物影響の数理モデルの構築
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20K19972
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Research Institution | Central Research Institute of Electric Power Industry |
Principal Investigator |
内之宮 光紀 一般財団法人電力中央研究所, 原子力技術研究所, 主任研究員 (40784426)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 放射線生物学 / 数理モデル / 複製エラー |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、がんの生涯リスクは細胞分裂時の複製エラーなどの内的要因によって説明できるという報告が注目を集めている。放射線による発がんリスクを議論する上では、放射線が存在しないような仮想的な状況において、複製エラーによってどれだけがんが生じるかを考慮する必要がある。本年度は複製エラーによる変異(以下、エラーと呼ぶ)と、放射線などによって時間的に一定の割合で変異(以下、損傷と呼ぶ)が蓄積する過程をシミュレーションし、それぞれの近似解を導いた。 また、それを用いて複数のがん関連遺伝子の変異によってがんが発生する過程をモデル化し、統計データと比較した。先行研究で推定された分裂頻度などを用いて、モデルのパラメータでフィッティングを行ったところ、多くの固形がんの発がんリスクを説明できることが分かった。今後、パラメータの妥当性等の検証が必要であるが、放射線などによるがんリスクの変化を定量化するための基礎となるモデルを作成することができた。 さらに、エラーと損傷が存在する場合の発がんリスクからエラーのみの場合の発がんリスクを引いたリスク差を調べた。リスク差の時間変化は、0から徐々におおきくなり、ある程度大きくなったところで減少し始め、最終的に0になる一山型を描いた。パラメータを変えて調べたところ、がん化に多くの変異が必要で、細胞分裂率が小さいほどリスク差の増加が始まるのは遅くなり、その最大値は大きくなることが示された。このことから、細胞の分裂が遅い組織においては放射線などの外的影響が表れるのは遅いことが予測された。 以上の結果は、日本数理生物学会などで発表し、現在は学術論文として投稿準備中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通り、複製エラーと外的要因によるDNA損傷を定式化し、その近似解を導出することができた。また、多段階発がん説に基づき、変異とがんリスクを結びつけ、統計データと比較することで、データを説明できるモデルとなっていることを確認した。さらに、細胞の分裂が遅い組織では放射線などの外的要因の影響が表れるのが遅いことが予測された。これらの結果は学術論文として投稿準備中である。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度の研究が計画通りに進んでいるため、引き続き計画に従い、大域的な細胞競合モデルを構築する。2020年度は細胞の分裂速度などが変異の数に関わらず細胞の性質に違いは無いと仮定していたが、変異によって細胞の性質が変化して細胞競合がある場合をモデル化する。
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Causes of Carryover |
まずは計算に必要なスペックのコンピュータの購入を優先し、その残りで必要なソフトウェアの購入を検討したが、残金が不足していたため、2021年度の予算と合わせてソフトウェアを購入する。
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