2020 Fiscal Year Research-status Report
森林の落葉多様性が分解速度を促進するプロセスの解明
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20K20003
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Research Institution | Forest Research and Management Organization |
Principal Investigator |
執行 宣彦 国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所, 任期付研究員 (70866110)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 土壌微生物 / 生物多様性ー生態系機能 / 機能形質 / プライミング効果 / ニッチ相補性 |
Outline of Annual Research Achievements |
樹木の生産する多様な落葉が森林土壌の生態系機能を向上させるという現象が古くから指摘されている。様々な形質の落葉の混合が分解速度に正の効果をもたらすことは、プライミング効果や分解者のニッチ相補性によって説明できるとされてきたが、落葉の中心的な分解者である微生物群集の動態を考慮した研究はこれまでなかった。そこで、本研究では、落葉の代謝産物と微生物の組成を網羅的に解析することで、森林の落葉分解における微生物群集を通じたプライミング効果とニッチ相補性の重要性を評価することを目的とした。 令和2年度は、落葉多様性と微生物群集の関係を明らかにするために、東京大学秩父演習林のコメツガとイヌブナの優占度勾配を考慮して選定した標高に沿った7ヶ所の試験地(30×30m)において、落葉層と0-5cmの鉱質土層の試料を採取した。これらの試料は化学特性分析用・土壌DNA分析用・土壌RNA分析用に分けて合計210サンプル採取した(7試験地×5反復×2層×3分析用)。土壌DNA分析用試料については、真正細菌の16S rRNA遺伝子V4領域を対象としたアンプリコンシーケンス解析と予測メタゲノム解析を行い、細菌類の分類群と機能遺伝子の組成を明らかにした。検出された各機能遺伝子量と植生の優占度の関係を解析した結果、コメツガおよびイヌブナの優占度の変化とともに変化する特異的な微生物の機能遺伝子が複数存在することが明らかになった。また、コメツガ・イヌブナ・ウダイカンバ・ウリハダカエデの樹木の下にリタートラップを設置し、令和3年度以降のマイクロコズム試験に供する落葉試料を採取した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和2年度は、野外調査により、環境変化に伴う(1)落葉中の代謝産物を明らかにすること、および、(2)微生物群集の変化を明らかにすることを計画していた。前者については、試料を採取したものの費用の問題から後者の解析を優先したため分析に遅れが出ている。しかし、後者については順調に進展しており、イヌブナの優占度の増加とともに脂肪酸や抗生物質合成関与の遺伝子量が増加する一方で、コメツガの優占度の増加は植物由来の糖の分解関与の遺伝子量の増加と関連があり、土壌有機物の分解に関わると考えられる特異的な微生物機能が複数変化していることが明らかとなった。加えて、この試験地における真菌類データを整理し、標高の上昇とともに腐生菌の多様性が減少することを明らかにした論文を公表できており(Shigyo & Hirao, 2021 Fungal Ecology)、全体としては概ね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
落葉の多様性を操作した土壌のマイクロコズム試験を開始し、プライミング効果仮説とニッチ相補性仮説を検証する。マイクロコズム試験では、令和2年度の野外調査から得られた結果を踏まえ、落葉多様性の少ないコメツガの優占する高標高(約1800 m)の地点の土壌を用いることを予定している。コメツガ1種にイヌブナ・ウダイカンバ・ウリハダカエデを組み合わせた条件(1種~4種)でマイクロコズムでの落葉混合実験を行う。
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Causes of Carryover |
ピペットチップが購入せずに済んだため。土壌RNA抽出キットを追加で購入する必要があり物品費として使用する。
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Research Products
(3 results)