2021 Fiscal Year Research-status Report
気候変動の適応をめぐる科学と政治の交錯ー気候工学と気候移住を事例に
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20K20022
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Research Institution | National Institute for Environmental Studies |
Principal Investigator |
朝山 慎一郎 国立研究開発法人国立環境研究所, 社会システム領域, 主任研究員 (50726908)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 気候変動 / 気候工学 / カーボンバジェット / ティッピングポイント / 気候危機 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、論争的な性格ゆえにこれまで政策枠組みから排除されてきた、気候工学と気候移住の二つのアプローチを適応策の文脈で捉え直すことで、気候変動の適応をめぐる人びとの言説の対立を明らかにし、新たな適応の政策的なフレーミングの提示を企図する。
今年度は、初年度と同様に気候工学に関連する文献調査を進めた。特に、カーボンバジェットのフレーミングから気候工学のアプローチがどのように理解できるかについての理論的な考察を進めた。予算(バジェット)という金融用語のメタファーは、地球平均気温の上昇幅によって地球物理的に定められた累積CO2排出量を超過した場合に負債が生じることを含意し、気候工学はそうした超過排出による負債を返済するのではなく、負債の貨幣化(monetization)に類似した手法であることが理解できた。すなわち、気候工学はCO2除去技術による負債の返済期限を先延ばしする時間稼ぎの手法として有用性を持ちうる一方で、負債の返済を無期限に延期することができるためにかえって負債の増大を招いてしまうといった大きな危険を伴うことを理論的に示すことができた。また、カーボンバジェットの概念は、気温上昇がある閾値を超えると不可逆かつ急激な気候影響を及ぼすとするティッピングポイントの概念とも強く結びついており、バジェットやティッピングポイント、さらには締切といったメタファーが気候変動のコミュニケーションにおいて果たす言説的な役割、その功罪についても理論的な考察を進めた。これらの研究成果は、国際的な英文学術誌Climatic Changeに査読付き論文として発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究では、気候工学と気候移住の二つを事例に、気候変動の適応をめぐる人びとの言説の対立を明らかにし、新たな適応の政策的なフレーミングの提示を企図するために、文献調査と専門家へのインタビュー調査を実施することを想定しているが、特に気候移住のテーマについては先行的な研究が進む欧州に渡航し、現地調査を行うことを当初想定していた。しかし、初年度と同様に今年度も新型コロナウイルス感染症の感染拡大によって海外での現地調査を全く実施できなかったため、気候移住のテーマについては文献調査を部分的に行うなどに留まらざるをえなかったため。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、合計三年間の研究期間の中で、次の三つの研究内容を具体的な実施項目として年次計画を立てていた。 (1)気候工学・気候移住に関する学術論文・政策文書・報告書の文献調査 (2)気候工学・気候移住をめぐる政策についての言説分析 (3)気候変動の適応策についての新たな概念枠組みの理論構築 研究手法としては当該テーマに関連する学術論文・政策文書・報告書等を網羅的にレビューする文献調査を基本としつつ、文献調査のデータを補完するために、国内外の専門家へのインタビュー・聞き取り調査を平行して実施することを当初予定していた。しかし、新型コロナウイルス感染症の収束についてはいまだに見通しが不確実で、海外への聞き取り調査についても見通しが難しいため、今年度も文献調査を中心に調査を進める。具体的な調査内容としては、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)における気候工学や気候移住に関連するLoss & Damageの議論の取り扱いについて調査を進める。
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Causes of Carryover |
今年度は初年度と同様に当初予定していた欧州での現地調査が新型コロナウイルス感染症の影響によって実施することができなかったために、その使用を本年度に繰り越すこととした。また、今年度の成果を国際学会等で発表するための旅費として支出する予定である。
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Research Products
(7 results)