2021 Fiscal Year Research-status Report
国家ブランディング概念を用いたシンガポールの生き残り戦略の研究
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20K20042
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Research Institution | Hokkai School of Commerce |
Principal Investigator |
坂口 可奈 北海商科大学, 商学部, 講師 (50756070)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 国家ブランディング / シンガポール / 観光政策 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和3年度は1本の論文と1回の学会報告として研究成果を発表した。『東亜経済研究』80号の「シンガポールの発展戦略におけるアジアのハブ構想―ヒトの移動の観点から―」では、1990年代後半以降のシンガポールの観光政策と人材政策を分析し、観光におけるアジアのハブ構想が他分野との連携のもとで構想および実行されていたことを明らかにした。1990年代後半の観光政策においては、シンガポールは自国単体の観光資源のみで観光客を誘致するのではなく、周辺のアジア地域の観光資源をも活用しつつ、地域の中心としてシンガポールを位置付けようと試みていた。観光におけるハブ構想は観光業の振興だけでなく東南アジア地域のハブという国家ブランド構築のために、国内の人材育成や外国からの人材誘致をも考えていた。シンガポールの観光政策が国内の人材を育てる教育と外国人労働者政策とも関連していたことが明らかになった。 第25回日本国際観光学会大会での報告「シンガポールの国家建設における観光政策の役割」では、1980年代の観光政策に関する政府機関の報告書と計画書を分析し、当時のシンガポールが観光資源として(再)開発しようとしていたものを示した。そして、その(再)開発における歴史遺産の強調には、従来指摘されていたような観光客数増加への期待だけなく、国民に対する教育効果への期待もあったことを明らかにした。すなわち、対外向けの国家ブランディングの手段である観光は国内向けの国家ブランディングのツールである教育・文化政策を補完するものとしても期待されていたことが明らかになった。2021年度の成果は、本研究課題の問いの一部を直接的にまたは間接的に解き明かすものであるといえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
令和2年度は、新型コロナウイルス感染症の流行により移動も制限され、オンライン授業への変更や感染対策など想定外の事態に対応せざるを得なかったため、研究が大きく滞った。同様の理由により、令和3年度もひきつづき研究遂行には影響が出た。とはいうものの、令和3年度は令和2年度に比べると研究は前進したと言える。令和3年度は、令和2年度に収集し基礎調査を行った資料に新たな視点を加えたことにより、1980年代から90年代後半の観光政策には国内政策との連関があったとの知見を得ることができた。そして、それらを研究の成果として発表することができた。 しかし、やはり令和2年度の大幅な遅れを取り戻すことは難しかったため、当初の研究計画よりも進捗が遅れている。これは、当初は令和2年度に行う予定であった計画を令和3年度に後ろ倒しせざるを得なかったこと及び新型コロナウイルス感染症流行の長期化で国外・国内移動が制限されたことにより、計画通りに研究を進められなかったことが大きな理由である。そのため令和3年度に研究期間の延長を申請し、延長の許可を得た。
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Strategy for Future Research Activity |
令和4年度は、令和2年度はもとより令和3年度よりもスムーズに研究を進められると考えられる。とはいえ、昨年度よりも海外調査の可能性は高くはなったものの、いまだ不透明な状況にある。そのため、令和4年度も基本的には国内所蔵の資料および取り寄せ可能な資料を中心に研究を進めていく予定である。国内での資料収集に関しては、現段階では特に支障なく実行可能であると考えている。しかし、移動に関しては感染状況を注視しつつ臨機応変に行っていきたい。 令和4年度は、令和3年度と同等の研究時間の確保は可能であると考えている。令和4年度は、2000年代後半以降の国家ブランディング戦略を扱い、既に入手した資料の分析を進めていく。具体的には、令和3年度に入手した歴史教科書の分析を進めて国内向けの国家ブランディング戦略を明らかにするとともに、シンガポールが試みた対外的な国家ブランディングを観光政策及びそれと関連する経済政策から明らかにしていく。分析予定の資料は既に入手することができている。令和4年度は予定している学会報告において国内の研究者からのコメントを求めるとともに、さらなる研究成果の発信に注力していきたい。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症流行により、令和2年度および令和3年度に当初計画で予定していた現地調査と現地での資料収集を行うことができなかった。流行の長期化のため、国内調査のための移動も自粛し、更に学会もオンライン開催となったため、旅費を使用しなかったことが次年度使用額が生じた大きな理由である。しかし、令和4年度には、対面方式で学会や研究会が開催されるものと考えられる。また、国内では図書館などでの資料収集にもほぼ制限がなくなっている。それゆえ、令和4年度には現段階で予定している国内での学会発表と資料収集のための旅費を使用する計画をたてている。とはいえ、海外調査の可能性を排除するものではない。また、昨年度と同様に文献購入費として助成金を使用する予定である。
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