2022 Fiscal Year Research-status Report
国家ブランディング概念を用いたシンガポールの生き残り戦略の研究
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20K20042
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Research Institution | Hokkai School of Commerce |
Principal Investigator |
坂口 可奈 北海商科大学, 商学部, 講師 (50756070)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 国家ブランディング / シンガポール / 観光政策 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和4年度は、学会報告2件と論文1本を通して本研究課題の研究成果を発表した。報告「シンガポールにおける自国像形成-インターナル・ブランディングの観点から」では、シンガポールのセコンダリー・スクールで使用される歴史教科書の記述の変遷を分析した。そして、シンガポールの歴史教科書は自国が脆弱であるとの自国像を与える一方、脆弱性の克服の記述を通してPAPの望む自国(民)像を国民に植え付けるものであったと明らかにした。さらに、その自国(民)像は自国を取り巻く国際情勢に応じて変化してきたことから、歴史教科書はPAP政府が対外的に広めたいシンガポール像を国内の人々に伝える手段の一つとして使われてきたことを指摘した。 報告「リー・シェンロン期シンガポールの国家ブランディング戦略--観光資源開発を中心に」では、リー・シェンロン期シンガポールの国家ブランディングにおいて、国内外の民間アクターが果たした役割を分析した。ここではリー・シェンロン期に(再)開発された観光資源を軸に、政府だけでなく国内外の民間アクター(個人や企業)にも焦点を置いて、シンガポールの国家ブランディング戦略を問い直した。そして、その民間アクターが国家ブランディングのための「ツール」であっただけでなく、関与した個人や企業自体がシンガポールの国家ブランドの「要素」であったと示した。 また、論文「歴史教科書の中の多『人種』シンガポール:歴史教科書は民族的多様性をいかに描いたか」では、多民族国家としての自国像に着目して歴史教科書の記述を分析した。そして、記述の変遷がシンガポール政府の望む自国像の変化を反映していることを明らかにするとともに、教科書の記述は移民の流入で増大する民族的多様性への対応策でもあると指摘した。これらの成果は、本研究課題の問いの一部を解明するものであった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
令和2年度は、新型コロナウイルス感染症の流行により生活が大きく変化したため、研究活動が大きく滞った。そのため、令和2年度は基礎的な調査を行うにとどまった。令和3年度も引き続き研究遂行に影響が出た。令和3年度には1980~90年代の観光政策及び教科書の分析を行ったが、当初計画を期間内に完遂することはできなかった。そのため、研究期間の延長を申請し、許可された。令和4年度には、完全とはいえないまでもおおよそは従来の研究活動を行えるまでに至ったため、国内での資料収集だけでなく、シンガポールでの資料収集も行うことができた。そして、研究活動で得られた知見の一部を研究報告及び論文として発表することができた。国内向けの国家ブランディングに関しては、教科書の分析を通して、政府の望む自国像が時代によって変化してきたことを報告することができた。また、対外的国家ブランディングに関しては、リー・シェンロン期の観光資源開発の分析を通して、2000年代の対外的な国家ブランディング戦略の一部を解明することができたといえる。令和4年度の資料収集及び研究活動により、1990年代から2000年代にシンガポール政府が行ってきた国家ブランディングの一部を明らかにすることができたと考えている。 しかしながら、令和2年度の研究活動の大幅な停滞による遅れとそれに伴う令和3年度の遅れを令和4年度だけで取り戻すことは難しかった。これは、新型コロナウイルス感染症のために国内移動及び海外渡航が制限されたことで資料収集が難しかったこと、そして校務においても講義のオンライン化に対応せざるを得なかったために、当初の予定よりも研究時間を確保することが難しかったためである。当初の計画が大幅に遅れたため、令和4年度にも研究期間の再延長を申請し、さらに一年間の延長を許可された。令和5年度は研究成果のさらなる発信に努める所存である。
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Strategy for Future Research Activity |
令和5年度は、移動に関しては感染状況を注視しつつ臨機応変に行うが、おおよそ新型コロナウイルス感染症が流行する以前のような研究活動が可能になっていると考えられる。この点では以前の年度に比べて感染症対策に関しての制約は小さい。これまでの3年間で研究に必要な資料はほぼ入手済ではあるが、いままでの研究活動で明らかになった課題を解決するため、今年度もシンガポールでの現地調査を予定している。 とはいえ、令和5年度は本務校での校務が増大したため、研究時間の確保が課題となる。この点について、授業期間中は細切れの時間も研究にあてる一方で、長期休み等で集中的に研究時間を確保することで研究時間確保における課題を解決するという計画を立てている。主に論文執筆のための時間を確保する。 いままでの研究期間で行った学会発表等で有益なコメントを得たことで、研究課題を完遂するための課題もより明確になった。特に、基礎的概念の定義のさらなる明確化の必要性や、シンガポールを取り巻く国際状況の変化との関連性の明確化の必要性などが明らかとなり、研究完遂への具体的な課題が明確となった。令和5年度はこうした課題を解決しつつ、いただいたコメントや示唆を取り入れ、これまでの研究活動で得られた知見を総合する予定である。そして、論文やさらなる学会等での報告などの形で研究成果を発表することを計画している。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症流行により、令和2年度および令和3年度に当初計画で予定していた現地調査を行うことができなかった。さらに、オンラインで行う学会も多く、国内での資料収集も大きく制限されていた。そのため、旅費としての使用額は非常に小さかった。令和2年度と令和3年度は主に図書購入費や先行研究を入手するための経費として助成金を使用した。 令和4年度には対面方式で学会や研究会が開催され、国内資料収集も制限なく可能となったため、国内旅費として助成金を使用した。また、シンガポールでの現地調査を行うことが可能となったため、研究期間初の海外旅費として助成金を使用した。 しかしながら、2年間国内移動や海外渡航が制限されていたために当初の予定よりも使用金額が小さかった。そのため、令和5年度に助成金を繰り越すこととなった。令和5年度には再度現地調査を行う予定であるため、次年度使用額は現地調査のための旅費として使用する予定である。
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