2021 Fiscal Year Research-status Report
民主化失敗以降のアラブ政治変動と穏健派イスラームの国際的思想構築
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20K20070
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
黒田 彩加 立命館大学, 立命館アジア・日本研究機構, 准教授 (90816183)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 現代イスラーム思想 / ムスリム知識人 / イスラーム主義 / イスラームとジェンダー / イスラームと民主主義 / アラブの春 / イスラーム国家 / シャリーア |
Outline of Annual Research Achievements |
アラブの春以降の政治思想の展開について、以下の点に着目して研究を進めた。 (1) アメリカ在住のエジプト系知識人であるハーリド・アブルファドルの政治思想について研究を進めた。特に、彼の思想における聖典理解のアプローチ、国家とシャリーア観、アラブ世界の近代化批判を中心に検討し、これがいずれも現代の過激派・宗教的厳格派批判につながっていることを明らかにした。さらに彼の思想が、いわゆる1990年代以降に一部の穏健派イスラーム主義者の間で唱えられるようになった「イスラーム民主主義」論を批判し、そのオルタナティヴを提示するものであることを明らかにした。
(2) 現代イスラーム政治思想における「勧善懲悪」の概念とジェンダー規範の関わりに関して研究発表を行った。特に、現代イスラーム世界で大きな影響力を持つサラフィー主義者(宗教的厳格派)が重視し、時に宗教警察のような形で市民生活への介入を行う際にも掲げられる「勧善懲悪」の理念と、一見世俗主義を掲げる近代国家であるエジプト政府による、ジェンダー規範への介入の比較を行った。
(3)上記(1)(2)に関連して、宗教的厳格派が掲げるイスラーム法の施行、近代憲法とイスラーム法の急速な接合、「勧善懲悪」概念の援用による市民生活への介入モデルに比して、穏健派のイスラーム政治思想がどのようなモデルに基づいているかを考察した。その結果、内部で様々な思想的異同はあるものの、穏健派の政治思想では、市民国家論や市民権論への関心のほか、具体的な法規定より、生命や財産といったイスラーム法が保護しようとしている諸価値に焦点をあてた人権思想が広がっていることを指摘した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度も文献調査を中心に研究を進めたが、国際会議を含む学会・研究会で成果の積極的な発信に努めた。アメリカ在住で世界的にも有名なムスリム知識人であるハーリド・アブルファドルの政治思想について、複数回研究発表を行い、原稿としてまとめられる段階まで研究を進めることが出来た。また、昨年度に引き続き、イスラーム政治思想とジェンダーというテーマに関して研究発表を行い、新たな研究テーマの開拓を進めることが出来た。
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Strategy for Future Research Activity |
研究期間最終年度については、3年間の総括と位置づけ、20年度~21年度以上に研究成果の発信に努める。 成果発信としては、ハーリド・アブルファドルの政治思想に関する研究報告の公開、学会発表、論文の執筆を予定している。 また、研究テーマとしては、近年、イスラーム思想で注目されている重要概念である「シャリーアの目的(マカースィド・シャリーア)」論が、アラブの春以降の政治思想にいかなる影響を与えたかについて、アラブ諸国のみならずイスラーム世界全体の国際的な動向も視野に入れながら、さらに研究を推進し、原稿にまとめる予定である。
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Research Products
(4 results)