2023 Fiscal Year Annual Research Report
民主化失敗以降のアラブ政治変動と穏健派イスラームの国際的思想構築
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20K20070
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
黒田 彩加 立命館大学, 立命館アジア・日本研究機構, 准教授 (90816183)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 現代イスラーム思想 / ムスリム知識人 / 穏健派と過激派 / イスラーム政治思想 / アラブの春 / 中東地域研究 |
Outline of Annual Research Achievements |
2023年度は、研究成果としてアラビア語でイスラーム政治思想に関する論文の発表に至った。当該論文では、日本とエジプトの近代化を比較する視座を取り入れながら、エジプトを代表する知識人であるターリク・ビシュリーの思想的貢献を民主主義論の視座から明らかにした。また、グローバルに展開するイスラーム思想運動に関する研究書の翻訳作業を進め、来年度に刊行を予定している。一般の研究活動に加えて、市民講座における研究成果の公開にも努めた。 2020~2023年度の4年間の研究を通して、以下のような成果を得た。イスラーム世界における改革派知識人の代表的存在でありながら、本邦でこれまで研究されてこなかったハーリド・アブルファドル(Khaled Abou El Fadl)の政治思想の研究を進めた。その結果、彼がイスラーム諸学とヒューマニズムの融合を目指したイスラーム政治思想を展開していること、彼の思想が、現代で注目されているイスラーム法学の理論である「シャリーアの目的論」と通底する道徳的価値を重視していることを明らかにした。さらに、アラブ諸国における民主主義の実現をめざす彼の思想が、一見別の側面であるようにみえて、イスラーム思想の復興・改革という思想的目標と接続されながら展開していることを明らかにした。 以上の研究成果を通じて、以下のような成果を得た。2010年代のアラブ諸国の民主化運動が多くの国で挫折し、民主化運動の中で注目されたイスラーム主義運動も停滞が指摘されている。そのような状況から、2010年代半ばより、中東やアラブにおける宗教と政治の関係ならびに現代イスラーム政治思想の研究が不足している状況にあった。しかし本研究課題を通じて、2010年代中盤以降においても、イスラーム主義とは異なる位相で、道徳的価値に重点を置いたイスラーム政治思想が展開していることを、その内実とともに明らかにした。
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