2021 Fiscal Year Research-status Report
メディア消費時代の現代インドにおける憎悪犯罪―州間比較から見る共生への模索
Project/Area Number |
20K20072
|
Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
油井 美春 関西学院大学, 国際学部, 准教授 (50634440)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | インド / 憎悪犯罪 / オンライン・ヘイトクライム |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、インド社会においてスマートフォンの急速な普及に伴う通信アプリを介した虚偽の情報の拡散とオンライン上の憎悪犯罪と暴行事件の頻発という現在進行形の問題に取り組んでいる。 2年目の当初の計画は、インドのケーララ州で自治体、教育関係者、州警察への聞き取り調査とネットリテラシー教育が行われている学校現場での参与観察を行い、合わせてグジャラート州に拠点を置く民間団体への調査でファクトチェックによる予防効果について検証することを予定していた。その上で、現地調査で得られた知見について国内外の学会にて報告することを予定していた。しかし、前年度に引き続き、国内外での新型コロナウィルスの流行拡大による渡航制限のため、現地調査やオフラインによる学会報告の実施は不可となった。 そこで、コロナ禍でのインド国内において2020年3月から悪化していったオンライン上の反ムスリムの言説をオンライン・ヘイトクライムとみなし、具体的事例から特徴と対策を分析した。主に現地発の報告書・新聞・雑誌記事の収集と分析から、ムスリムとコロナウィルスの感染拡大を結びつける言説が拡散し続け、民間団体によるファクトチェックや運営会社の書き込みの削除といった取り組みにも制約があることが明らかになった。 研究成果として、2021年10月に開催された日本南アジア学会第34回全国大会にて「インドにおける公権力のコミュニティ対立への介入」との演題で研究報告1件を行った。さらに、コロナ対応に従事したインド警察による反ムスリム的な言動や暴行事件について、その要因を検討した英語論文”Police Misbehaviour in the COVID-19 Pandemic in India, 2020 ”がJournal of Urban and Regional Studies on Contemporary Indiaに掲載された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究はインドでの現地調査と国内外での成果公表を行い、学会報告を通じて、現地調査で得られた知見を再検討し、また変容する憎悪犯罪とその対策についての学際的研究の意義を発信することを目的としている。 当初はインド・ケーララ州、グジャラート州に滞在しながら、自治体、教育関係者、州警察への聞き取り調査とネットリテラシー教育が行われている学校現場への参与観察を行う予定であった。しかし、国内外での新型コロナウィルスの流行拡大に伴って、2020年度と同様にインド渡航が制限されており、インドは世界で最も感染状況が厳しい状況にあるため、2021年度内も引き続き聞き取り調査と参与観察による現地調査を行うことができなかった。そのため、本研究課題の進捗状況はやや遅れているとの評価を行う。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究の目的は、憎悪犯罪の形態や争点の変容を把握し、新たな展開とその予防について、ケーララ州、グジャラート州、マハーラーシュトラ州での聞き取り調査と参与観察を行い、実践に対する評価や応用可能性を考察することである。 コロナ禍で引き続き、インドへの渡航が制限されている状況下においては、現地研究協力者への聞き取りをオンラインに切り替えて実施することを予定している。 インドではコロナ禍という状況において、オンライン上の憎悪犯罪は苛烈化している。一方、同じく虚偽情報や誹謗中傷の書き込みが増加しているシンガポールでは、法規制による取り締まりを強化しており、過度の検閲や権力の濫用との批判がある。民間団体によるファクトチェックや運営会社による書き込みの削除といった対策には限度があり、人的にも制約が生じている。インドでは憎悪犯罪は刑法犯罪と規定されているが、オンラインにまで取り締まりは及んでいない。シンガポールとの事例の比較から、制度的な取り締まりの効果について検討していく予定である。
|
Causes of Carryover |
新型コロナウィルスの流行拡大によって、国外への渡航が制限されている状況下で、現地調査実施および国際会議出席のために計上していた旅費が使用できなかったため。 2022年度では、インドの現地研究協力者への聞き取りをオンラインで行う予定で、現在調整中である。インドに加えて、比較事例としてシンガポールが実施してきた法規制によるオンライン上の憎悪犯罪への取り締まりについても、現地発の新聞・雑誌記事、年次報告書、学術論文の収集を行うための費用として使用する。 2021年度においては県境移動にも制約があったが、2022年度には千葉県にあるアジア経済研究所付属図書館といった国内研究機関において、資料収集と解析を行うための旅費支出も予定している。
|