2021 Fiscal Year Research-status Report
アディクションとジェンダーの相互作用:女性薬物使用者の回復・再生・変容
Project/Area Number |
20K20102
|
Research Institution | National Center of Neurology and Psychiatry |
Principal Investigator |
菊池 美名子 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター, 精神保健研究所 薬物依存研究部, 研究生 (80769836)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | アディクション / ジェンダー / 薬物使用 / 批判的障害学 / インターセクショナリティ / トラウマ / 自傷行為 / 文化的表象 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、女性アディクション当事者の経験、とくに回復・再生・変容に関する生きられた経験と、医療モデルを超えた当事者主体の多様な臨床実践、抵抗、問題解決のあり方について明らかにすること、ひいてはアディクションとジェンダーの相互作用について検討し、アディクションにまつわる女性たちの経験を語る言葉を増やすことを目的とする。 令和2年度の研究経緯をふまえ、令和3年度は年間テーマを「アディクション・批判的障害学・インターセクショナリティ」と定め、特に以下の研究活動を行った。 (1)まず、資料整理補助者と共に、批判的障害学やクリップ・セオリー、マッド・スタディーズ、第四波フェミニズムといった思想の新潮流とインターセクショナリティ理論について学術文献の収集・整理を行なった。また、それらの知見とアディクション関連問題に関する知見とを接合しながら考察を深めた。さらに、子をもつ薬物使用者の子育て関連領域のレビューを開始した。論考三編を発表し、これらの成果の発信に努めた(うち一編は掲載が令和4年度のため令和3年度実施状況報告書研究発表欄には未記載)。 (2)令和2年度に引き続き、国内の女性依存症者回復支援を行う民間非営利組織と連携し、特に同施設の子育て支援プログラムに着目して、参与観察、非構造化インタビューを実施した。令和3年度は、あわせてグループインタビューの準備を進め、同施設にて研究説明会およびスタッフらとの共同研究会議を実施した。 (3)令和2年度に引き続き、女性薬物使用者の被処遇/介入経験に関するインタビュー調査データについて質的分析を行い、英語圏における批判的薬物研究および社会学を中心とした学際的観点から考察を行った。現在論文を再投稿中である。 (4)令和2年度に引き続き、日本のポピュラーカルチャーと自傷行為、ジェンダーに関する国際共同研究を実施した。国際学術誌に共著論文を投稿し、採録された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究は、「研究実績の概要」に記したように、相互に関連する複数の研究調査を柱としている。そのいずれについても、新型コロナウィルス感染症の影響を受けた何らかの計画変更を伴いつつも、順調に進展した。 (1)に関しては、令和2年度に引き続き、コロナ禍により国外への渡航が難しくなり、国外学会参加による知見の共有や情報収集等はできなかった。しかし、研究目的を達成すべく柔軟に計画を変更して研究活動を進め、オンラインデータベースを利用した先行研究のレビューを実施した。令和2年度に重点的なレビューを要する領域が明らかになり、令和3年度は当該領域について特に海外の先行研究を中心としたレビューを実施したが、国内で共有されていない人文社会科学分野の重要な知見を得て整理することができ、実り多いものとなった。 (2)に関しては、国内の女性依存症者回復支援を行う民間非営利組織の研究協力により、当初の予定(令和4年度)を繰り上げて、同施設の子育て支援プログラムを中心に調査を進めた。また、これに関連して、子をもつ薬物使用者の子育て関連領域に関するレビューも一部前倒しする形で実施した。 (3)に関しては、投稿中の論文が再投稿に進み順調に進展している。 (4)に関しては、国際共同研究が進展した。アディクションと関連したポピュラーカルチャーの分析を通し、医療モデルを超えた当事者主体の多様な臨床実践について考察を深めることができた。また、国際誌にて成果の発表も行なった。さらに、メンタルヘルスと文化的表象、批判的障害学等を専門とする海外研究協力者との意見交換を通して、令和4年度以降の課題についても示唆を得ることができた。 以上を総合して、現在までの進捗状況は当初の計画以上に進展しているといえる。
|
Strategy for Future Research Activity |
令和4年度は、主に、国内の女性依存症者回復支援を行う民間非営利組織の研究協力を得て、参与観察および非構造化インタビュー、グループインタビューを実施する予定である。ただし、新型コロナウィルス感染症の感染拡大状況を考慮しながら進行し、もしもグループインタビューが難しい場合には、個別のインタビューや、オンラインでのインタビューに切り替えるなどの対策を講じることとする。そこで得られた結果と、先行研究レビューの結果をもとに、薬物使用経験のある女性たちのリプロダクションと「回復」についての生きられた経験、自助活動や仲間との当事者研究、情報発信等を通した抵抗の可能性について検討する。 また、国際共同研究も引き続き実施し、国際誌への投稿を視野に入れながら、文化的表象を通じたアディクション当事者の抵抗の実践について考察を進める。 最終年度(令和5年度)には、得られた結果をもとに研究協力者(当事者、関連諸領域の研究者、臨床家、活動家ら)との事例検討および学際的な理論的討議を行い、それらをふまえてアディクション当事者の回復・再生・変容、およびその過程で創出される文化について研究成果をとりまとめる。研究成果は報告書として発表するほか、書籍、論文、支援者や一般向けの講演等において発信し、社会に成果を還元していく。
|
Causes of Carryover |
令和2年度実施状況報告書においても言及した通り、(1)海外先行研究のレビューが進展し、貴重な知見を得られたと同時に、今後重点的なレビューを要する領域が明らかにされ、(2)国内の女性依存症者回復支援を行う民間非営利組織の研究協力により、当初の予定(令和4年度)を繰り上げて、同団体の子育て支援プログラムを中心とした調査を開始した。このため令和3年度は、資料整理補助者と共に、重点的なレビューを要する領域の学術文献の収集・整理、および子をもつ薬物使用者の子育て関連領域に関するレビューを一部前倒しする形で実施するために、前倒し請求を行なった。このレビューの区切りがついた時点で当該作業を中断したため、次年度使用額が生じた。
|