2020 Fiscal Year Research-status Report
Experimental determination of the transition energy with a cold molecular ion beam toward molecular ion clock development
Project/Area Number |
20K20110
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
木村 直樹 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 研究員 (80846238)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 冷却分子イオンビーム / イオン蓄積リング / 分子イオン分光 / 輻射冷却 / 実験室プラズマ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、分子イオン時計に有用と提案されているCaH+の振動遷移のエネルギーを実験的に決定することを最終目標に設定し、理化学研究所の極低温型イオン蓄積リング(RICE)を用いて生成した冷却分子イオンビームのレーザー分光実験を遂行している。 初年度は、まずCaH+イオンビームの安定的な生成手法を検討し、レーザー生成プラズマ中でCaH+イオンが生成出来ることを確認した。さらに、以前RICEを用いて行った分子イオンN2O+の分光及び輻射冷却過程観測の実験結果の解析を進め、RICEの実験における解析・検討方法を確立した。本解析では、「三原子分子イオンの輻射冷却過程ではプラズマ中における励起状態分布を色濃く反映すること」「プラズマ中における伸縮振動モードの励起状態分布は比較的潤沢になること」「我々のレーザー分光の測定系はCaH+の分光に十分な分解能を有すること」などが見出され、冷却CaH+分子イオンビームのレーザー分光実験に向けて非常に有益な知見が積みあがったといえる。なお、N2O+実験の成果は、既に論文にまとめ、2020年度に公表済みである。 また、N2O+実験の解析によって、プラズマ中におけるイオンの状態分布の理解が非常に重要であることを再認識したため、その理解をより深める活動の一環として電気通信大学の実験室プラズマ(EBIT)を用いる共同研究を開始した。本年度のEBIT実験では「準安定状態がもたらすプラズマ中イオンの特異なイオン化過程の解明」「プラズマ中多価イオンに対するレーザー分光実験の成功」という2件の大きな進捗があった。このEBIT実験で得られた知見は、今後のRICEの実験で大いに役立てられるものと考えている。 さらに、新たな分子イオン時計の候補を理論的に探索する活動も推進し、水素化希ガス分子イオンの有用性を指摘する論文を2020年度に公表している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、初年度中にCaH+イオンビームとレーザーを用いた分光実験を開始する予定であったが、新型コロナウイルス感染拡大によって研究活動が制限されたことも影響し、本実験を開始するには至らなかった。 しかしながら、予備実験によって実験室プラズマ中でCaH+が生成可能なことを確認できたことは本研究にとって大きな一歩であり、これによって本実験の遂行にある程度の見通しが立てられるようになってきている。 また、N2O+の輻射冷却過程に関する実験の解析の結果、単純な分子イオンにおける振動及び回転状態の輻射冷却過程の理解に大幅な進展があったことも、今後行う実験結果の解析に大きく役立つ成果であると言える。 加えて、研究実績の概要にも記載した通り、当初の予定に無かった成果も数多く積みあがっている。 以上を総合的に判断し、おおむね順調な進捗であるとした。
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Strategy for Future Research Activity |
現状得られているCaH+のビーム強度は、レーザー分光実験を行うには少々物足りない。そのため、まずはイオン源の運転を定常的に行い、CaH+分子イオンビームを安定に高強度で生成できる条件を詰めていく。 また並行して、CaH+以外の2原子分子および3原子分子のレーザー分光実験を行うことで、光学系のセットアップを洗練させていき、CaH+ビームの分光実験に備える予定である。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの感染拡大の影響で実験活動が制限された時期があったこともあり、レーザーを用いた実験が当初の想定よりも進まなかった。そのため、光学系部材やレーザー色素などの物品購入が次年度に持ち越しとなった。また、国内外での学会発表も予定していたが、全て中止・延期かリモート開催となったため、その分の旅費も持ち越しとなった。 次年度は、レーザーを用いた実験が本格化し、物品費の使用が増えるものと想定される。
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