2020 Fiscal Year Research-status Report
単振動イオン高周波共鳴による多価イオン出力機構の実証機開発
Project/Area Number |
20K20112
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
小川原 亮 京都大学, 化学研究所, 助教 (00807729)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | チャージブリーダー / EBIT / イオンビーム / 高周波共鳴 / 原子核物理 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、チャージブリーダー(イオン多価化装置)の高効率化のため、「単振動イオン高周波共鳴」という新しいアイデアを利用したイオン出力機構の実証機を開発する。従来型チャージブリーダーの価数変換効率は 約20% 程度であるため、生成数の少ない不安定核ビームを利用した実験に制限がかかっている。本研究で提案する「単振動イオン高周波共鳴」法は、チャージブリーダーに蓄積されたイオンの広い価数分布状態の中から要求する価数のイオンのみを選択的に取り出し、他はその価数に達するまで内部に捕獲し続けることが可能である。したがって、原理的に100%の価数変換が可能である。本研究では、この新しい原理に基づいた実証機を製作し、この新しい多価イオン出力機構の有用性実証を目的とする。 2020年度は単振動イオン高周波共鳴を実装した実証機の設計と開発を行い、作成した実証機を京都大学化学研究所に設置した。研究実施計画の通り、イオンを捕獲・多価化させるための電子ビームの調整を行い、イオンを多価化する領域において数百マイクロメートルという細いビームサイズを達成した。また、電子ビームコレクタにおける電子回収効率も約99.9%を達成し原理実証機として十分な性能を持つ装置の開発に成功した。また、2020年度は真空中の残留ガスイオンを用いて単振動イオン高周波共鳴の原理実証実験を行い、要求する価数のイオンを特異的に取り出すことに成功した。これらの実証実験から、要求する価数のみを取り出す効率は装置のパラメータにかなり強く依存することが分かり、装置の改良点も明らかになった。装置のコンセプトとシミュレーション結果は第17回 日本加速器学会年会で発表し、原理実証実験の結果は日本物理学会第76回年次大会にて発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度の研究実施計画では、実証機開発のための物品調達及び装置設計と製作、電子ビーム調整、入射用イオンビーム輸送系及び検出器系の整備、残留ガスを用いた単振動イオン高周波共鳴の原理実証実験を行う予定であり、これらの内入射用イオンビーム輸送系の整備以外全て完了した。入射用イオンビーム輸送系とは、チャージブリーダーに外部からイオンを入射するための設備であり、残留ガスを用いた原理実証実験において必要不可欠な設備でない。2020年度は原理実証実験を優先したため、入射用イオンビーム輸送系の整備を後回しにした。したがって、完璧に研究実施計画通りではないものの、大きな目標である単振動イオン高周波共鳴の原理実証実験には成功したため、現在までの進捗状況は(2)おおむね順調に進展しているとした。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度の研究によって原理実証実験は完了したため、2021年度は装置最適化による性能の向上と、厳密な性能評価を行う。装置の最適化については2020年度の原理実証実験に得られた知見とシミュレーションを用いて進めていく。一方、厳密な性能評価には外部からイオンを入射する設備が必要不可欠である。なぜなら、要求した価数への変換効率を正しく評価するためには、外部から数の分かっている1価イオンを入射する必要があり、ほぼ無限に供給され続ける残留ガスイオンではこの性能評価に適切ではない。 外部から入射するイオンは100%の効率でチャージブリーダーに捕獲されることが望ましい。したがって、シミュレーションによってその条件を満たす入射イオンビームの状態(入射位置と角度のアクセプタンス)を計算し、そこからイオンビーム輸送系をデザインする必要がある。したがって、2021年度は入射イオンビーム輸送系の設計をしつつ、既設装置の最適化を進め、開発した原理実証機のチャージブリーダーとしての性能評価を行う。
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