2020 Fiscal Year Research-status Report
過渡吸収現象を利用した極端紫外・軟X線領域の高強度アト秒パルスの生成
Project/Area Number |
20K20113
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Research Institution | Japan Synchrotron Radiation Research Institute |
Principal Investigator |
大和田 成起 公益財団法人高輝度光科学研究センター, XFEL利用研究推進室, 研究員 (90725962)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 超短パルス発生 / ビーム安定化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、近赤外領域の超短パルスによって希ガス原子内で生じる電子状態の過渡的な占有数の変化によって、極端紫外・軟X線領域の自由電子レーザー(FEL)パルスの一部を切り出し、短パルス化することにある。2020年度は、COVID-19の影響などにより研究遂行環境に変化が生じたため計画の一部を変更し、超短パルス発生などの個別の要素技術に関する検討および開発を行なった。実験を予定しているFEL施設SACLAのBL1で利用可能な近赤外フェムト秒レーザーのパルスエネルギーは8 mJ/pulse程度であるため、イオン化エネルギーの比較的大きいネオンガス雰囲気下であれば、中空ファイバー中で自己位相変調を生じさせることにより、100 nm(FWHM)程度のスペクトル幅に広帯域化することは十分可能である。一方で、光学素子類の温度変化や振動などに起因する近赤外パルスの空間ポインティング揺らぎは、試料やFELパルスと近赤外パルスとの空間重なりの低下だけでなく、近赤外パルスの中空ファイバーへのカップリングや、広帯域化後のチャープミラーによる分散補償などにも影響を及ぼすため、できるだけ安定化させることが望ましい。2020年度では、近傍界および遠方界のビームプロファイルを2次元位置検出器にて観測し、ピエゾ素子とステッピングモーターを組み合わせたミラーによりフィードバックを行うことで空間揺らぎの安定化を試みた。使用を予定している光学レーザーの繰り返し周波数が60 Hzなため、それよりも早い周波数である振動に起因する空間揺らぎを完全に補正することは難しいが、比較的遅い振動および熱の影響による空間揺らぎを10数 μm程度まで抑制することに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2020年度はCOVID-19の影響などによりXFELを利用した研究には至らなかったが、その一方で超短パルス発生と超高真空ビームラインにおける高圧ガスセルという2つの実験要素技術について検討・開発を行った。具体的には近赤外レーザーの自己位相変調によるスペクトル幅の広帯域化および分散補償によるパルス圧縮の検討を行なった。また、安定した広帯域パルス発生のための要素技術として、近赤外レーザーの空間揺らぎの安定化システムの開発を行い、空間揺らぎを安定化することに成功した。また、過渡的な吸収率の変化を誘起するターゲットとなる希ガスを封入するガスセルは20から30 torr程度の圧力が必要である一方で、FELビームラインや実験チェンバーは10^-7 torr程度の超高真空に保つ必要があり、その両立が困難であった。高強度の高次高調波パルス発生に使用されるガスセルが、本研究の実験条件ともよく合致しているため、その技術を応用することで実現が可能であることがわかった。
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Strategy for Future Research Activity |
近赤外領域の超短パルス生成のための要素開発を終えたため、今後は速やかに自己位相変調を用いたパルス幅10 fs程度の超短パルス生成、および2光束干渉を利用した計測による超短パルス幅評価を行う。希ガスを超高真空化に封入する実験装置においては、高次高調波発生に用いられるガスセルを利用できることがわかったため、その技術を用いた実験装置を開発し、検証を行う。また、SACLA BL1にて実際に軟X線FELパルスを使用し、軟XFELパルスの短パルス化実験を行う。スペクトル幅を測定することでシングルショットでパルス時間幅の評価を行うが、スペクトル幅から見積もることができる時間幅は、軟X線スペクトロメーターの分解能によって5 fs程度以下に制限されしまう。本研究では相補的にパルス幅を見積もるために、軟X線パルスによって誘起されるガリウムヒ素の近赤外領域における過渡的な反射率の時間変化を測定する。この過渡的な反射率の変化は軟X線FELパルスの電場強度が1 mJ/cm2程度で誘起することが可能なため、数%程度のFELパルス透過率変化で、十分測定が可能であると考える。また、本研究では空間デコーディング法を用いることで時間情報を空間情報に変換し、シングルショットで時間幅を測定するものとする。
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Causes of Carryover |
10^-7 torr程度の超高真空下で数十 torr程度に希ガスを封入するためのガスセルの開発に遅れが生じたため、実験チャンバー製作費用に差額が生じた。また、COVID-19の影響により出張が無くなったため、旅費等の使用がなくなった。2021年度は、真空容器の製作、および広帯域化したパルスの2次分散補償ミラーの購入を行うため、予定通り支出予定である。
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