2020 Fiscal Year Research-status Report
概念の階層構造を生成する再帰的結合能力の起源と進化に関する研究
Project/Area Number |
20K20146
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
外谷 弦太 東京大学, 大学院総合文化研究科, 特別研究員 (70847772)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 表象操作 / 再帰的結合 / 運動制御の進化 / 大脳基底核ループ / 手続き的知識 / 宣言的知識 |
Outline of Annual Research Achievements |
人間の言語は動物の鳴き声と異なり、階層構造を介して意味と音がつなげられるという特徴をもつ。この言語表現の全体的な意味は、語彙要素の再帰的な結合(Recursive Combination、以下RC)によって作られる。RCは語彙項目のような抽象的なものより以前に、具体的な物体の操作から進化したとする仮説が提唱されている。本研究の目的は、RCが物体の操作から抽象的要素の操作へと転移する条件と進化プロセスを明らかにすることである。 本研究の目的を達成するには、物体や表象の操作メカニズムという行動観察のみでは特定できないものの進化を考える必要がある。そのために、個体の内部状態を自由に設計・観察可能な物体と表象操作の数理モデルを構築した(課題A)。このモデルを元に、再帰的結合の進化に関して、生物の運動システムの計算論およびシステム論的観点からの考察し、オンラインで開催された『共創言語進化学若手の会』で発表を行なった(学会発表1)。また、学習した環境モデルの動員に関して、心のモジュール仮説および二重過程説の観点から考察し、オンラインで開催された新学術領域の全体会議で発表、議論を行った(学会発表2)。 人類の石器製作史は、オルドワン、アシューリアン、ムステリアンに大きく分けられ、その製作技法の複雑さが経験的にも定量的にも異なることが指摘されている。そこで、課題Aのモデルを用いて石器製作技法の各段階とモデルの各タイプの対応を特定する(課題B)。石器製作の伝達には内分泌系、特に再帰的結合にも関わる大脳基底核におけるドーパミンシステムの変化が必要不可欠であるため、これについて東京大学理学部の徳増雄大氏と共同でレビューし、オピニオン論文を執筆した。この論文は次年度にひつじ書房から出版予定の藤田・岡ノ谷編著『進化言語学の創成』に掲載予定である(発表年未定、学会誌等への発表)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウイルス感染症の影響により、当該年度は関連研究者との会合や海外の研究者の招聘、国際学会発表などはできなかった。チンパンジーの物体操作分析に関しても、深層学習技術を用いたトラッキングと定量的分析を予定していたが、計算機および分析ソフトウェアの導入に遅れが生じたため当該年度中にはできなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
物体操作から表象操作へとRCが進化する条件と進化プロセスを明らかにするためには、課題Bで想定した各段階のRCが進化する条件とプロセスを特定する必要がある。そのために、課題Aで構築したモデルを用いた学習を実装したエージェントの進化シミュレーションを実施する。また、物体の再帰的操作に関して、チンパンジーおよびヒト幼児の発達の知見、および京都大学霊長類研究所の林美里氏より提供された最新データを深層学習を用いた運動追跡技術によって分析し、モデルの妥当性を検討する。また、石器製作に関しても現代の初心者と熟練者を対象に、実施場面や矜持場面を録画し同様の分析を行いたい。シミュレーション結果、および行動分析結果に関しては、言語学や動物行動学、人類学といった文脈それぞれから学会発表・論文投稿を行う。 2021年度から2022年度の間は、課題ABCを相互の整合性を考慮しつつそれぞれ並行して行い、数理モデルと進化シナリオ双方の妥当性を連続的 に向上させていく。最終年度は、より統合的な議論、研究領域外への発展を考察・議論するため、学際的な研究を行っている海外の著名研究者 を複数名招いてワークショップを開催し、他分野との連携研究に繋がる交流を行う。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症により対面での学会発表や会合ができなくなったため、旅費に計上した経費が未使用のまま残った。
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Research Products
(3 results)