2020 Fiscal Year Research-status Report
Meta recognition in fish: Comfirm by using the ability of mirror self-recognition in cleaner wrasse
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20K20154
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
十川 俊平 大阪市立大学, 理学研究科, 特任助教 (70854107)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | メタ認知 / 鏡像自己認知 / ホンソメワケベラ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は2019年に鏡像自己認知が確認されたホンソメワケベラで、メタ認知を確認することである。メタ認知とは、自己の自信や知識の有無を自覚し、それに応じて行動を変えることができる能力で、最高次の自己意識であると言われている。このメタ認知は霊長類をはじめイルカのような一部の社会性哺乳類を除いて確認されていない。しかし、ホンソメワケベラにおいて鏡像自己認知が確認されたことでその風向きは変わってきた。鏡像自己認知もまた自己意識の発現の一つだからである。そして、鏡像自己認知の研究を進める中で、ホンソメワケベラが鏡を見て自身の体長を理解できる可能性が出てきた。そこで本研究ではこの能力を利用し、ホンソメワケベラが鏡を見たと後、いったんそれを隠すことで自身の体長に関する記憶をあいまいにさせ、そのときに他個体のモデルを見せることで次の行動の意思決定にどのような変化が起きるかを見ることにした。もし、記憶があいまいになればなるほど意思決定に時間がかかったり、鏡を見て体調を確認する時間が増えるなら、ホンソメワケベラはメタ認知していることになる。そこでまず、ホンソメワケベラが鏡を見なくてもどの程度自身の体長をわかっているかを確認した。実験の結果、ホンソメワケベラは自身の体長プラスマイナス20%程度の大きさを把握していることがわかった。そして、プラスマイナス10%だと把握できていなかった。次に鏡を見せてから10%違うモデルを見せると、自身より10%大きいモデルに対して攻撃しなくなった。この結果はホンソメワケベラが鏡を見て自身の体長を把握できていることを意味する。この実験結果は第39回動物行動学会で発表された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は1年目にホンソメワケベラがどの程度自己の体長を把握しているかの研究を行い、2年目に鏡を使って自己の体長をより正確に把握できるかを確かめる予定であった。また、同時に野外でホンソメワケベラを観察し、自身と相手の体調によってふるまいを変えるようなことが観察されるかをスキューバダイビングによって確かめるつもりであったが、これはコロナ禍の影響で断念した。しかし、その分水槽実験に当てる時間が増え、1年目と2年目に予定していた2つの実験が順調に進み、ホンソメワケベラが自身の体長より5%大きい、あるいは小さいモデルに対しては同サイズの個体に対するものと変わらない攻撃行動を、10%大きい、あるいは小さいモデルに対しては同サイズのモデルに対するものと変わらないが、より行動の開始に時間がかかることが、15%大きい、あるいは小さいモデルに対しては個体によって異なる攻撃行動を示すことがわかった。以上の結果より、鏡の有無によってモデルに対する行動が変化するのは10%だということが予想された。この結果を用いて、2年目に予定していたホンソメワケベラが鏡を用いて自身の体長を把握できるかを確かめる実験を行った。結果、ホンソメワケベラは鏡を見ると、自分より10%大きいモデルに対して攻撃しなくなった。これは、ホンソメワケベラが鏡を見て自身がモデルより小さいことに気が付いたことを示しており、実験は成功と言える。この結果は第39回動物行動学会で発表され、最優秀ポスター賞を受賞した。そして、現在はメタ認知確認のため、どの程度鏡を隠せばホンソメワケベラの記憶があいまいになるかを探っているとこである。
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Strategy for Future Research Activity |
去年度の研究により、ホンソメワケベラが鏡を用いて自身の大きさを正確に把握できることがわかってきた。次はいよいよメタ認知を確かめる。その為にはホンソメワケベラが自身の体長に関する記憶があいまいになった時に鏡をより見るようになる、という行動を引き出さなくてはならない。予備実験では鏡を隠して10分後は自分より大きいモデルに対しても逃避的な行動をしていることから、この時点では自身の体長に関する記憶ははっきりしており、鏡を隠して2週間後は自分より大きいモデルに対して攻撃的になったことから、この時点で自身の体長に関する記憶はほとんどなくなっていると予想される。問題はこの間のどの時間でその記憶があいまいになり始めるかであり、本年度はそれを探るために6時間後、24時間後、3日後、1週間後と同様の実験を行い、ホンソメワケベラのモデルに対する行動の違いを観察していく予定である。記憶のあいまいさはモデルに対する攻撃行動の開始を決定するまでの時間と逃避行動を決定するまでの時間を指標とする。攻撃するまでに時間がかかる方が、より記憶があいまいになっており、逃避するまでにより時間がかかる方が、より記憶があいまいになっているはずである。ここで注意しなければならないのは、2週間後のように完全に忘れていては実験にならないということである。そうして、ホンソメワケベラの自身の体長に関する記憶があいまいになっている2地点を探し出し、より時間が経過している地点の方が、より意思決定に時間がかかれば、これは自身の記憶の自信をもとに行動を決定しており、メタ認知能力があると言えるはずである。
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Causes of Carryover |
ホンソメワケベラが鏡を見て自身の体長を把握したり、メタ認知できているというためにまずはモデルに対する行動解析が必要である。この行動解析は家庭用のビデオカメラで撮影することで、問題なく記録できる。しかし、一方で生理学的測定も必要である。なぜなら行動に応じて呼吸数や心拍数などの変化が見られればより説得的だからである。そこで本研究ではハイスピードカメラやサーモグラフィを用い、ホンソメワケベラの生理学的変化を見ることを予定していた。しかし、コロナ禍もあり、実験の開始が4月から8月まで遅れてしまい、これらの実験をすることができなかった。そこで、まずは行動実験に注力し、それに関しては確たる成果を得たが、生理学的測定に関しては今後の課題となったため、本年度以降に進めていきたいと考えている。
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