2020 Fiscal Year Research-status Report

細胞に対する機械振動の付与による抗がん剤の薬効の向上

Research Project

Project/Area Number	20K20172
Research Institution	Tokyo Women's Medical University
Principal Investigator	今城哉裕東京女子医科大学, 医学部, 博士研究員 (10866635)
Project Period (FY)	2020-04-01 – 2023-03-31
Keywords	メカノトランスダクション / 振動工学
Outline of Annual Research Achievements	医療の目覚ましい発展により，多くの病気の治療法が開発されている．その一方で，1981年以降，がんは我が国における死因の第1位である．これに伴い，抗がん剤の開発も進んでいるが，抗がん剤によるがん治療には大きな副作用が伴う．このため，最近は抗がん剤を患部に対して優先的に届けるドラッグデリバリーシステム（DDS）が開発されてきたが，現状では患部のみに効率的に薬剤を届けることは困難である．そこで，機械振動によるメカノセラピーに注目した．がんの罹患部にのみ振動を付与し，振動にさらされた部位において抗がん剤の薬効を向上できると考えた．このコンセプトの妥当性を示すため，in vitroにおいて細胞への機械振動の付与により抗がん剤の薬効を向上させることを本研究の目的とする．薬効が向上するメカニズムを解明するため，本研究では「どのような振動刺激が，どのようなタンパク質発現を制御することで，抗がん剤の薬効を向上するのか」を明らかにする．このために，昨年度は実験に至適な薬剤の添加濃度とデバイス作成を予定していた．しかしながら，コロナ禍により，活動が制限され特にデバイスの作成において大きな予定変更を余儀なくされた．そこで，デザインを大幅に変更してデバイスを作成した．具体的には，kHz帯の線形機械振動を細胞に対して照射可能なデバイスを開発し，その振動特性を評価した．このため，当初の予定よりは遅れが出ているものの，現在までにヒト臍帯静脈内皮細胞（Human Umbilical Vein Endothelial Cells：HUVEC）を用いて薬効の向上を確認した．
Current Status of Research Progress	Current Status of Research Progress 3: Progress in research has been slightly delayed. Reason 当初の予定では，一年目に実験に至適な薬剤の種類と添加濃度の検討，およびデバイス設計と製作を予定していた．しかし，コロナ禍により，オンサイトでの実験が制限されて双方の進捗に影響が出てしまった．とくに，デバイスの製作に関しては，複数の実験施設を駆使する予定であったため，より顕著に影響が出てしまった．当初はコロナ収束を期待していたが，収束の兆しが見えないことから，デバイスの設計を大幅に変更することとした．このため，大幅な計画の遅延は免れたと考えている．具体的には，当初は，MHz帯の表面弾性波を照射可能なデバイスを開発する予定であったが，実際にはkHz帯の体積弾性波を照射するデバイスを開発した．しかし，本年度に実施した実験結果の範囲から機械振動と薬効向上の間に何らかの関係があることが明らかになっている．
Strategy for Future Research Activity	現在までにkHz帯の体積弾性波を照射するデバイスを開発し，HUVECを用いて薬効の向上を確認した．本年度からは，当初の目的通り，まずは下記の二点を同時に実施する．①抗がん剤の薬効があらわれる添加濃度の閾値を確認する．②実験に用いる振動の条件を決定する．①に関しては，機械振動による薬効の向上を顕在化するために，薬効が現れない閾値以下の濃度で実験を行うために実施する．②に関しては，機械振動のみで細胞の破砕が起きることが報告されているため，これが発生しない領域を事前に検討する．上記の二点の確認が終了したのちに，条件内において細胞死が発生する閾値以下の濃度の抗がん剤を細胞に添加して，様々な条件の振動を付与することで，細胞死が発生する閾値の低下，すなわち抗がん剤の薬効の向上を定量化することを試みる．このために，音響理論，シミュレーションおよび実験を相互に用いる予定である．目的を達成する機械振動の条件を明らかにした後に，細胞機能の継時変化を定量化する．具体的にはウエスタンブロットによってタンパク質発現を，グルコースアッセイによって代謝を，アポトーシスネクローシスアッセイによって細胞の死の形態を確認する．さらに，抗がん剤の薬効を向上する振動が，抗がん剤なしで細胞に与える影響を評価する．これによって，細胞への振動の付与によって抗がん剤の薬効が向上する原理を明らかにする．
Causes of Carryover	コロナ禍により，研究計画を変更したことに起因する．当初の予定では，一年目に実験に至適な薬剤の種類と添加濃度の検討，およびデバイス設計と製作を予定していた．しかし，オンサイトでの実験が制限されて双方の進捗に影響が出てしまった．とくに，デバイスの製作に関しては，複数の実験施設を駆使する予定であったため，顕著に影響が出た．デバイスの設計を大幅に変更することとした．このため，大幅な計画の遅延は免れたと考えているが，実験施設を使用することができなくなったため，本年度は予定よりも使用する予算が少なくなった．また，少々予定よりも研究が遅延していることと，コロナ禍を鑑みて，学会での発表も控えたこともその原因となった．一方で，2021年度は，設計は変更しないもののデバイスの完成度を高めてより安定的な実験系を作ること，成果の積極的な外部発信を想定している．このことから次年度使用額が生じた．