2020 Fiscal Year Research-status Report
細胞間生命情報伝達を担う新規膜小胞の生物物理化学特性の解明
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20K20297
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Research Institution | National Institute of Advanced Industrial Science and Technology |
Principal Investigator |
石井 則行 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 主任研究員 (10261174)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | エキソソーム / エクソソーム / 生体分子 / 細胞外膜小胞 / ナノコロイド / 透過型電子顕微鏡 / 動的光散乱 |
Outline of Annual Research Achievements |
エキソソーム(exosome)は、エンドサイトーシス小胞を介して後期エンドソームの多胞体(MVB:multivesicular body)から細胞外に開口分泌される膜小胞(EV:extracellular vesicle)であり、近傍あるいは血液・唾液等の体液循環に乗って離れた全身の標的組織・細胞に取り込まれ、細胞間での情報伝達、物質輸送の担体として機能している。 我々は、エキソソームが生体ナノコロイド粒子であることに留意し、凝集、膜融合等変性のない “インタクト”な形状・状態を保持した分画調製を目標に「生物物理学的解析に適した膜小胞の調製方法」を開発し、この度、特許査定を受けた(特許第6853983号)。ヒト胎児腎細胞293(HEK-293)の培養上清からショ糖密度勾配超遠心分離法により、CD63等を指標に免疫生化学的にエキソソーム含有分画を同定し、透過型電子顕微鏡法および動的光散乱法によって粒径分布等を比較検討した。 エキソソームは、粒径~100 nmに単一ピークをもつガウス分布を示すと説明されているが、本調製法による“インタクト”なエキソソームでは、粒径≧100 nmの他に~50 nmの集団も確認された。エタノール上昇系列による脱水処理、樹脂包埋から、HEK-293細胞超薄切片の電子顕微鏡解析を行ったところ、分泌直前のMVB内のエキソソームは、粒径68.7 ± 16.6 nmであることが分かり、高い整合性が認められた。 本調製法では、エキソソーム含有分画のショ糖濃度は10%前後と高く、クライオ電子顕微鏡法ではコントラストが得られない。ショ糖密度勾配に依らない分画調製法の開発に着手し、再現性等において安定した結果が得られている。今後は、この調製法から、クライオ電子顕微鏡解析に適した条件検討を進め、“インタクトな”エキソソームに特徴的な生物物理化学的特性の解明を急ぐ。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
エキソソームは、実際にはヘテロな多様体であるが、その生物機能を解明するために、生体ナノコロイド粒子として捉え直し、形状・大きさ(構造)に着目し、“インタクト”な形状・状態に安定的に保持可能な条件、一つのパラメータにおいて均質な対象として分画調製する技術基盤の確立が必須であると考え、物理化学的視点から、「生物物理学的解析に適した膜小胞の調製方法」(特許第6853983号)を開発した。本調製法によるエキソソーム含有分画は、そのままの状態で即、諸々の機器分析・測定等に使用可能であったが、クライオ電子顕微鏡法を試みた折に、ショ糖濃度が10%前後と高いため、無染色ではコントラストが得られ難いことから、高次の形状・構造情報が殆ど描出できないことが分かった。種々のショ糖濃度を下げる手法を試みたが、溶液環境の変化や吸着等によるロスが多くなり、困難を極めた。 新型コロナ感染症対策に対応した勤務体制(3密(密閉、密集、密接)の回避、外勤・出張の禁止、出勤者7割削減、テレワーク等々)に終始した一年間であったため、年度当初に計画していた外部研究機関や大学での実験等の総てが行えなくなってしまった。また、当該感染症のパンデミック(世界的大流行)のため、実験に必要な物品(試薬や消耗品類)の海外からの入荷・調達が困難な期間が長く続いた。 また、エキソソーム産生実験に用いる細胞株を増殖スピードの速いHEK-293FTに変更し、ショ糖密度勾配に依らない新たな分画調製法の開発に着手したが、上述の事由等があり、想定以上に時間を要した。試行錯誤を重ね、漸く再現性等において安定した結果が得られている。今後は、この新たな調製法から、クライオ電子顕微鏡解析に適した条件検討を進め、“インタクトな”エキソソームの生物物理化学的特性の解明を進める。 これらを客観的に総合評価し、「やや遅れている」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
エキソソームは、発生や生理的プロセスおよび病理的プロセスにおいて細胞間での情報伝達、物質輸送の担体として機能している。癌の臓器特異的転移にも関与しており、その標的分子認識機構の解明は、革新的ドラッグデリバリー技術開発を加速するとして期待されている。 一方で、エキソソームは、ナノサイズのヘテロな複雑系であり、インタクトな状態(物性等も含め)で調製を可能とする標準化された分離方法は確立されていない。また、評価・分析方法として最も普及している動的光散乱法では、渾然一体とした測定対象からエキソソームを選別することはできない。また、多様な生体成分から構成される膜小胞は、内包物・量が一様ではなく、工業的な粉粒体とは異なり、散乱強度において規則性が明らかではないことが分かってきた。 電子顕微鏡法では観察対象を直接、実像として確認できる利点はあるが、観察用試料の作成や顕微鏡操作の面で専門的高度な技術の修練が必要とされる。「生物物理学的解析に適した膜小胞の調製方法」(特許第6853983号)によるエキソソーム分画のショ糖濃度は10%前後と高いため、直接、急速凍結を行い、クライオ電子顕微鏡法を試みたところ、コントラストが得られないことが分かった。一方で、ネガティブ染色による従来法には、根強い需要があり、これまでに、膜小胞の電子顕微鏡観察に有用な電子染色剤の試作や、観察試料作製用工具等を考案することができた。 エキソソーム産生実験で使用する細胞株を増殖スピードの速いHEK-293FTに変更し、馴化培養液の有効成分等を検討した後、ショ糖密度勾配に影響されない新たな分画調製法の開発に着手した。試行錯誤を重ね、現在は再現性等において安定した結果が得られている。今後は、この調製法から、クライオ電子顕微鏡解析に適した条件検討を進め、“インタクトな”エキソソームの生物物理化学的特性の解明を進める。
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Causes of Carryover |
政府や地方自治体、所属研究機関から発出された新型コロナ感染症対策に対応した勤務体制(3密(密閉、密集、密接)の回避、外勤・出張の禁止、出勤者7割削減、テレワーク等)のもとで、年度当初に予定(計画)していた外部連携機関や大学での実験等の総てが行えなくなってしまい、また、人類を脅かす当該感染症のパンデミック(世界的大流行)のため、実験に必要な物品(試薬や消耗品類)の国内在庫が品薄、在庫切れとなっていたり、海外から必要な数量の入荷・納品が極めて困難な期間が長らく続いたため、当該助成金の次年度使用が生じた。現在(2021年5月)は、昨年の同時期に比べると、エタノール等の試薬類も、プラスチック製品の消耗品類も予定通りの入荷となっているが、一方で、感染力が増強され、重症化し易い変異ウイルス株(N501Y、E484K、E484Q、L452R等)が蔓延して来ており、ワクチン接種の遅れと相まって、予断を許さない状況にある。感染症の蔓延および社会・経済状況に注意を払いつつも、研究を前に進めるべく計画的に適切な予算執行に心掛けて行く。
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Research Products
(3 results)